ニッポンを自転車安全先進国に!
~事故防止のために知っておきたいこと~

古倉 宗治(こくら むねはる)
自転車の安全利用促進委員・博士(工学)。東京大学法学部卒業後、建設省入省。東京工業大学助教授、(財)民間都市開発推進機構都市研究センター、(財)土地総合研究所等を経て、現在、(株)三井住友トラスト基礎研究所研究理事。自転車政策、都市計画について研究し、政策提言等を積極的に行っている。

1.交通事故のデータ分析などをされている古倉さんですが、自転車事故にはどのような事例が多いのでしょうか。

 2013年のデータでは、自転車事故の件数は年間約12万件で、中でも、最も多いのが自動車との事故です。自転車と自動車の事故では、自転車側がけがをする割合が99%を占め、自転車にとって非常に危険な状態といえます。

 自転車と自動車の事故が起こる場所として最も多いのが、事故件数の約7割を占める交差点です。私独自の交差点の類型で、歩道がない道同士の「裏道交差点」、脇道から幹線道路に合流する「脇道交差点」(歩道はあるが信号機のない交差点)、そして幹線道路同士の「幹線道路交差点」(歩道と信号機のある交差点)としておりますが、最も事故が多いのが裏道交差点で、全件数のおよそ25%を占めています。次に脇道交差点、幹線道路交差点は最も件数が少なくなっています。事故のリスクを回避するために、各交差点の事故件数を考慮しながらルートを選ぶことも重要です。

2.裏道交差点での自動車との事故が多いのは何故でしょうか。

 裏道交差点での事故は、自動車が左折、あるいは右折したときに自転車が巻き込まれるといったケースよりも、自転車が交差点に進入した際の「出会い頭」の事故が約8割と圧倒的に多いという特徴があります。

 幹線道路は信号機も設置されており、自転車に乗る側も「車が多いだろう」という心構えがあるので、出会い頭の事故は起こりにくいものです。しかし、裏道交差点では、逆に「車が来ないだろう」と考えて、一旦停止、左右の確認、信号を守ることなどを行わず、しかもスピードも落とさずに進入してしまうことが原因です。

3.自転車は、車道だけではなく歩道での事故も多いですね。

 はい。意外に思われるかもしれませんが、自転車の自動車との事故は、実は車道よりも歩道で起こることのほうが多いのです。道路交通法では、自転車が歩道を通る際、(歩道の)中心線から車道寄りを徐行しなくてはならないことが定められています。しかしそのルールを知らず、建物ギリギリのところを通るなどしてしまい、駐車場等から出てきた自動車と出会い頭にぶつかるといったケースがあります。

 そして歩道では、歩行者と自転車がぶつかることもあります。ここで知っておいてほしいのは、歩行者と自転車の事故では、自転車が歩行者の後ろから、横をすり抜ける際の事故よりも、正面からぶつかる事故が多いということ。これも、対面であれば相手がよけてくれるだろうと考えることによる判断ミスです。

4.平成27年6月に改正道路交通法が施行され、自転車の取り締まりが厳格化されましたが、どのように変わったとお感じでしょうか?

 大きく報道されたこともあり、自転車利用者をはじめ、多くの方がルールを意識したことに効果があったと思います。また、法律上、自転車のルール違反の類型は50~60種類ありますが、それだけ多いと覚えきれませんし、行政も均一に取り締まるのがむずかしい。改正により、危険度の高い禁止行為が14類型にしぼりこまれたことにも意義があると思います。

 ただ、人がルールを守るためには、単なる義務感だけではなく「納得性」が必要です。自転車に乗る方が、先ほど申し上げた自転車事故の起こりやすいケースを知り、ルールを守ることが自らの身を守ることにつながる、ということを深く理解することが大切です。また、行政の側も、条文の順番通りに危険行為を紹介するだけではなく、事故件数の多いものや、危険度の高い行為を大きく紹介するなど、メリハリをつけた広報をすることが重要だと思います。

5.改正法の違反行為の中には「ブレーキ不良自転車の運転」もあります。整備不良による事故も非常に危険ですね。

 整備不良を原因とした事故は件数としては表れにくいものですが、たとえば坂道等での事故で、ブレーキ性能が遠因となっているなど、様々な原因で起こる事故の裏に、自転車の整備不良が隠れていることは多いのではないかと思います。

 日本人は、残念ながら、自転車の点検整備に対する意識が低いと感じています。ある駐輪場の利用者を対象に「1年間に自転車の整備にかける費用」を聞ききましたが、このアンケートデータによると、約3割の人が「ゼロ円」と回答し、半分程度が「300円以下」と回答しています。300円以下というと、専門店でのパンクの修理代にも満たない金額です。このことから、専門店で定期的に点検、メンテナンスをしてもらう習慣は根付いているとはいえません。

 その点で、自転車協会で作られたスポーツ用自転車を扱う、信頼のおけるショップへの資格認定制度「SBAA PLUS」は意義が深いと思います。1年に一回くらい、SBAA PLUS認定店で、車検のように自転車を整備してもらう習慣が定着するのが望ましいですね。また、安い自転車の中には新品の時点で将来危険な状態になりうる欠陥が隠れていることもありますので、スポーツ用自転車安全基準(SBAA基準)をクリアした「SBAAマーク」貼付車のような品質の良い自転車を買うことも重要です。

 私は様々な都市で、自転車道路等のインフラ、自転車に関する交通法規などについて見ていますが、道路等の走行する空間が充実している都市でも、その道を走る「自転車の点検整備に関する制度づくり」に積極的に取り組んでいるところはほとんどありません。日本の道路は、自転車レーンの少なさなど、ほかの先進国と比べて遅れている面がありますが、道路の上を走る自転車の「安全性を高める方策」については、工夫を凝らせば最先端になれるのではないかと期待しています。

6.最後に、スポーツ用自転車の初心者の皆様にメッセージをお願いします。

 スポーツ用自転車は、環境のため、また人の健康のため、すばらしい可能性を持っています。しかし、今後更なるスポーツ用自転車の普及、自動車からの転換は「安全」「快適」「迅速」のすべてが揃わなくては実現しません。中でも、最も重要なものが「安全」です。事故の被害者、また加害者にならないために、自転車事故を回避する知識を持ち、ルールを守って運転すること、そして、常に整備された自転車に乗ることを心がけながら、スポーツサイクリングを楽しんでいただきたいと思います。

【古倉さんよりコメント】
自転車が走りやすい環境をつくるためには、法律や道路等のインフラ整備だけではなく、サイクリストの意識改革が重要です。スポーツ用自転車に乗る方が率先してルールを守り、さっそうと走る姿を見せることで、社会全体が変わります。すべてのサイクリストの模範となるような、かっこいい「スタイル」を身に着けてください。

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