トレーニング効果はウォーキングの2倍!
自転車を使った週1日運動のすすめ

髙石 鉄雄(たかいし てつお)
1960年生まれ。名古屋市立大学大学院 システム自然科学研究科 教授。運動生理学、バイオメカニクス、健康科学を専門分野とする。東海体力医学会理事。2006年に『自転車運動に対する身体適応および日常的自転車使用による健康づくりの可能性』を論文として発表。著書、共著に『アクティブサイクリング自転車に乗ろう』(土屋書店)、『自転車で健康になる』(日本経済出版)がある。

1.身体の健康と運動をテーマに研究をされてきた髙石教授。なかでも、スポーツ用自転車を利用した健康法を研究することになったきっかけを教えてください。

 もともと私自身が陸上選手で、脚への負担や筋肉疲労について研究しようと考えたのが始まりでした。同じスピードでも「歩幅を小さく歩数を多く走る」のと、「歩幅を大きく歩数を少なく走る」のでは、どちらの方が疲れにくく走れるのか。調べ始めると、ランニングでは実験データが取りにくいことが判明しました。そこで、注目したのが自転車でした。同じスピードでも、自転車ならペダルを1回こぐ時の負荷を、ギアチェンジによって変えられます。筋疲労や全身疲労、スピード効率を研究する題材として最適だと思ったのです。

2.どのような研究を進めてきたのでしょうか。

 1990年から98年にかけて、ロードバイクを題材に論文を数多く発表しました。例えば、「ペダリング能力の差が筋疲労に影響する」と結論づけた論文は、欧米のロードレーサーを中心に非常に興味を持ってもらいました。ペダリングの回転数を上げれば、脚の上下運動が増えるので、筋疲労も増すだろうと考えましたが、ペダリング技術の高い選手たちは、回転数が上がっても疲労がたまるわけではない。むしろ、高回転に慣れた方が、疲労は少なくてすむのです。生体力学と運動生理学の両方からアプローチした研究がそれまでなかったので、国際学会では、競技者を含め多くの人から質問を受けました。1990年代中ごろの私の英文論文は、今でも世界中の自転車関連論文に引用され続けています。
 ただ、残念ながら、国内での反応は静かなものでした。日本ではロードバイクが今ほど一般的に知られていませんでしたから。「何か、日本のためになる研究をしたい」と考えていた97年末に、COP3で京都議定書が採択され「エコな自転車に乗ろう」という流れがやってきます。そこで、多くの方が通勤や通学で使うシティサイクル(いわゆるママチャリ)の方にフォーカスし、どのように乗ると、健康効果が高まるかを研究しようと考えました。私の京都大学での博士論文『自転車運動に対する身体適応および日常的自転車使用による健康づくりの可能性』は、こうして生まれました。

3.ウォーキングと比較して、自転車にはどのような運動効果が期待できますか。

 シティサイクルなどの日常的に身近に乗っている自転車でも、普通にこげば時速12-15kmは出るので、ウォーキングより運動強度(単位時間当たりの運動量を表すもの)が高く、エネルギー消費量も多くなります。通常の速度(時速5km)で歩けば、40代の一般男性の心拍数は80-90bpm程度ですが、自転車をこいでいる時なら80-100bpm程度になります。通勤・通学で自転車を使う方は、「イチニ・イチニ」とリズミカルにこぐことが多いので、その時はシティサイクルでも時速15~18km、運動強度は平地を歩いている時の1.5~2倍になるのです。

4.効率よく負荷をかけ、健康づくりのためにトレーニング効果を上げるような乗り方はありますか。

 アップダウンのある道を走ることです。自転車は、立体移動すなわち、高低差を伴う走行になると体への負荷が一気に大きくなります。例えば、勾配1%(100メートル進んだ時に1メートル上がる)のゆるい上り坂だと、ウォーキング時は平坦な道を歩いているときに比べて13%程度しかエネルギー消費量が上がりません。しかし自転車の場合、平坦な道を走っているときに比べて、40%近くまで上昇。運動の機会効率が全然違います。歩いているときはひざの屈伸運動は少なくほとんど伸びていますが、自転車だと90度近く曲げた状態から、自分の体重と自転車の重さを外側広筋(太ももの筋肉)にグッと加えて発進します。少しの勾配でも重力による負荷がかかり、もっとも衰えやすいといわれる外側広筋を効率よく鍛えることができるのです。
 40歳の平均男性(身長173cm、体重65kg想定)だと、少しの勾配でも、発進時のひと漕ぎ目は、30kgもの荷物を背負ってスクワットするくらいの脚力が必要になります。筋力低下を遅らせる効果は十分見込めます。
 シティサイクルは、ロードバイクに比べ乗車姿勢が起きるので、前方から風の抵抗を受けやすく、スピードが出ません。「同じ運動強度でスピードが遅いのは効率が悪い」と思うかもしれませんが、通勤・通学といった日常行動で使えるトレーニングアイテムとしてはオススメです。信号で止まらないようにスピードを調整しながら走るよりは、しっかり走って信号では止まり、またしっかり走るというインターバルを繰り返すといいでしょう。ポイントは走りにメリハリをつけること。加速する際に脚へ負荷がかかり、無酸素運動なので心拍数が一気に上がります。負荷をかけると、筋肉にはストレスになり、それを乗り越えようという反応で、筋肉が強化されていきます。一方、ロードバイクは、信号が少なく、アップダウンのある道を走るのに最適。軽量で変速ギアが多いため坂道も登り続けられるので、エネルギー消費量が非常に高くなります。

5.運動習慣のない人が自転車を始める際、どれくらいの頻度でどんな乗り方をするとよいでしょうか。

 トレーニングにはさまざまな目的があると思いますが、一般的な30-40代の男女が「健康寿命を長くするため」と想定して考えた場合、女性なら週に1回1時間、男性なら週に1回2時間の乗車から始めましょう。
 女性は男性に比べ、体重あたりの筋肉量が少なく、閉経後には骨が弱くなります。転倒が多いのは圧倒的に女性なので、今のうちから脚力を強化しておくことが将来のためにとても大切です。一般的に女性は有酸素運動を好み、男性は筋トレを好む傾向にありますが、実は、女性こそ無酸素運動で筋力を鍛えることが大事。ちょっとした坂道を軽めのギアにして80-90rpmで100mぐらい走ると脚が張って(固まって)きます。このような走りを30分に5~6回行うと脚筋力低下が予防できます。一般の女性の平地走行であれば、ロードバイクやクロスバイクなら時速25kmくらい、シティサイクルなら時速18km程度まで出せると坂道走行と同じような効果が期待できます。
 男性は、長時間こぎ続ける運動の方が、呼吸循環器系を鍛える有酸素運動となり、動脈硬化や、脳血管系の疾病予防につながります。
 自転車はランニングのように踏み込みの反動で返ってくる力がなく、筋肉の損傷がありません。こまめにエネルギーを補給し、こいだあとにしっかり休養を取れば、毎日でも続けられる優れたスポーツなのです。

6.女性にとっては美脚効果も期待できますか。

 何をもって美脚かというかによりますが、私が思う美しい脚とは、男女問わず、「足首、ひざがきゅっと細く、太もも、ふくらはぎに締まった筋肉がついている脚」。そのためには、適度に筋肉をつける運動が必要です。脚の筋肉に効率よく負荷をかけられる自転車は、最適だと言えるでしょう。また、自転車に乗ると脚が太くなると思っている方が多いのですが、よっぽど高負荷のトレーニングを行わないかぎりは脚が太くなることはありません。ペダリング時の太ももの前後運動により、普段なかなか鍛えられない太もも裏が刺激され、締まった脚に近づきます。
 さらに、ペダリングの際にはお尻の筋肉を使って脚に力を伝えるので、ヒップアップ効果も期待できますよ。

7.最後に、自転車を始める読者の方に、メッセージをお願いします。

 「ちょっときついな」と、体に負荷をかけるような運動をしないと、筋肉は衰えてしまいます。自転車を漕ぐことで太ももの筋肉をたくさん使い、乳酸が出て脚が張ってようやく、「緊急事態だ。筋肉を強くして乗り越えなくては」と筋力アップにつながるのです。大切なのは、乗り越えられる程度のストレスを適度にかけ、「この身体、この筋肉はまだまだ必要だぞ」と自分の体にサインを送り続けること。そうすることで、筋力低下の防止につながります。
 日本人の平均余命(65歳になった方が、どれくらい生きるかの寿命)は、約50年前の1965年と比べて、男性で6年、女性で10年も伸びています。長寿であることは喜ばしい反面、立つのが億劫になったり、転倒が増えたりと健康に不安を抱える方も非常に多い。年齢を重ねても元気な毎日を過ごせるかは、体力・脚力が十分ある年齢のあいだに、どれだけ適度な負荷を伴うトレーニングで、筋力をつけてきたかにかかっています。
 関節や骨に大きな負荷をかけず、筋肉を強化できる“自転車”を、生涯スポーツとして取り入れることで、より充実した人生を是非とも楽しんでほしいと思っています。

【髙石さんよりコメント】
ゆるやかな坂道でも体に大きな負担をかけられるなど、自転車は運動強度が高く、効率的にトレーニングができるのでオススメです。通勤・通学中にも、1~2%の坂はたくさんありますので、リズミカルにペダリングしながら毎日の運動を楽しんでください。安心して乗り続けるには、メンテナンスも大切。自転車の不具合から体を故障し、運動できなくなっては本末転倒です。信頼できる専門家に、愛車をこまめにチェックしてもらうことも、トレーニングの一環ですよ。

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