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ダウンヒルの選手は体重が重いほうが有利なのでしょうか?

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ダウンヒルの選手は体重が重いほうが有利なのでしょうか?

 マウンテンバイク(MTB)のプロフェッショナルがMTBにまつわる素朴な疑問に答えていく本コーナー。今回は「ダウンヒルの選手は体重が重いほうが有利なのでしょうか?」という質問にプロライダーの井手川直樹氏が答えていきます。

今回の回答者 井手川直樹(いでがわ なおき)
 1980年4月22日生まれ。1996年に日本最高峰のクラス、エリートクラスへ特別昇格。今も破られていない最年少記録である16歳で全日本チャンピオンに。2002年から2年間は海外のチームへ移籍しワールドカップを転戦。その活躍からホンダ・レーシング(HRC)MTBチームの設立当初からメンバーとして活動した。在籍中、2年連続でナショナルチャンピオンやアジアチャンピオンなどを獲得し、数多くの功績を残した。現在も現役にこだわり、2021年度発足の「TEAM A&F」では選手兼監督としてレース活動を続けながら、チーム運営やMTBの普及活動に努めている。

 皆さん、こんにちは。プロマウンテンバイクライダーの井手川直樹(いでがわ なおき)です。

 「ダウンヒルは下りの競技なので、体重が重たい方が有利なのではないですか?」こんな質問を受けることがあります。

 確かに綺麗な道を真っ直ぐに下るだけなら、体重が重たい方がスピードにのって速く進むと考えるのが自然ですね。

ダウンヒルは下りの競技なので、体重が重たい方が有利なのではないのか…という疑問に答えていきます

トップライダーの体重は?

 では、ダウンヒルのトップライダーたちは全員、体重が重く、身長は大きいのでしょうか? 簡単に言ってしまうと答えは「No」です。

 例えば僕は日本チャンピオンとアジアチャンピオンを獲得しましたが、身長は172cmで体重は66kgという平均的な体型です。世界チャンピオンを獲得した選手でも170cm/60kgもいれば、190cm/80kgを超える選手もいます。

 この事実からも分かるように、体重が重たいほうが有利とは一概には言えないというのが答えとなります。では次に「なぜ?」と言う疑問が出てきますよね。

 これはグレッグ・ミナー選手が昨年末に来日した際に撮った写真ですが、彼は身長188cmで体重が86kgもあります。写真を見ても僕との身長差は歴然としていますね!

世界チャンピオンとワールドカップチャンピオンを数回獲得し、僕の元チームメイトで、僕の英語の先生でもあるグレッグ・ミナー選手

 ダウンヒルは確かに下るスポーツですが、ただ下るだけではありません。ペダルを漕いでスピードを上げることもあれば、ブレーキを使ってスピードやバイクをハードなコンディションのなかコントロールします。コースも木の根があったり、ジャンプがあったり、アップダウンが連続するセクションなどもありますので、ただ下るだけではなく想像よりも過酷な運動なのです。

 例えば、陸上競技の100m走は会場が違ってもコースのコンディションは大きく変わらず、走る距離は必ず100mと決まっていますよね。

コース条件がわかると理解も進む

 ダウンヒル競技の場合、国際ルールを見てみると競技時間は最長5分(レースのクラスによって最短時間は1分だったり2分だったりします)、コース長は最長3500mと書かれています。レースのカテゴリーにもよって異なりますが、この規則内であればOKということになります。

 ということは、使われるコースによって条件がまったく違うということになります。それに、世界中どこを探しても同じ形の山やコースはありませんので、何もかもが違ってきます。レース中に雨が降ってどんどん路面が変わっていってしまうこともあります。自然を相手にするスポーツなので、常に同じ状況やコンディションだとは限らないのがダウンヒルという競技です。

 これだけコースの条件が異なってくるとライダーそれぞれに得意不得意がでてきますので、必ずしも体重が重たければ速いというわけではないということになります。MTBという「道具」を扱うということもあって、何が正解かというのを明確な言葉にすることが難しい競技かもしれませんね。

 だからこそ、経験値が最も重要となってきますが、人は歳を重ねるごとに身体は老化し、痛みを覚えることで「恐怖心」も強くなります。スキル的には、素早く動ける若い年齢とそれなりに経験を積んだ中堅あたりがレースでは最もいい時期だと個人的には考えています。10代からMTBを始めているとすれば、25〜30歳くらいが最もいい時期だという感覚ですね。

チーム内でも大きく違う体格

 これは僕が所属するKONA RACING TEAMのメンバー写真です。見て分かるように、左の永田隼也選手(2005年全日本チャンピオン)は、身長184cm/体重78kg。真ん中の秋元拓海選手(2017年ユース全日本チャンピオン)は身長171cm/体重65kgとチーム内でも体格に差があります。

 僕がこれまで25年間プロライダーとして走ってきて個人的に感じたこととして、ダウンヒルには大きく分けて3つのタイプのライダーがいると考えています。

  • 3タイプに分かれるダウンヒルライダー
  • ・パワー系(失速を瞬発力で加速させてリカバリーし、荒れた路面などもパワーで押さえ込む人)
  • ・持久力系(心肺機能、筋力ともに持久力がありトップスピードを維持するのが得意な人)
  • ・脱力系(パワーも持久力もほどほど。しかし衝撃を身体で逃すのが得意で、無駄な動きが少ないことによって省エネで走れる人)

 パワー系はガッチリ、持久系と脱力系は細めの体型が多いですね。ちなみに僕は自分を「パワー系」と「脱力系」の間だと考えています。僕は25年間のプロ生活で一度も骨折をしたことがありませんが、これはとっさのときに上手く力を抜くことができているということが理由のひとつだと思っています。

 みなさんもまず自分が「何系」に当てはまるのかを考えてみましょう。そして、長所を伸ばすためのトレーニングを行うことで、怪我のリスクを減らし安定した走りが可能となります。

 例えばパワー系であれば、瞬発力を向上させるためのウエイトトレーニングや短時間のダッシュ系トレーニングが有効ですね。それぞれの長所に合わせた強化を実践されることをオススメします。

 最後までご覧いただき、ありがとうございました。

 体作りに生かして下さい。