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ハードテイルとフルサスの違いは?

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ハードテイルとフルサスの違いは?

 マウンテンバイク(MTB)のプロフェッショナルがMTBにまつわる素朴な疑問に答えていく本コーナー。第28回は「ハードテイルとフルサスの違いは?」という質問にプロライダーの井手川直樹氏が答えていきます。

今回の回答者 : 井手川直樹(いでがわ なおき)
 1980年4月22日生まれ。1996年に日本最高峰のクラス、エリートクラスへ特別昇格。今も破られていない最年少記録である16歳で全日本チャンピオンに。2002年から2年間は海外のチームへ移籍しワールドカップを転戦。その活躍からホンダ・レーシング(HRC)MTBチームの設立当初からメンバーとして活動した。在籍中、2年連続でナショナルチャンピオンやアジアチャンピオンなどを獲得し、数多くの功績を残した。現在も現役にこだわり、2021年度発足の「TEAM A&F」では選手兼監督としてレース活動を続けながら、チーム運営やMTBの普及活動に努めている。

 皆さん、こんにちは。プロマウンテンバイクライダーの井手川直樹(いでがわ なおき)です。

 マウンテンバイクのことを調べると必ず出てくる「ハードテイル」と「フルサスペンション」(フルサス)という2つの言葉。マウンテンバイクの車種を分ける大きな要素でもありますが、この2つについて解説したいと思います。

ハードテイルとフルサス、どんな自転車?

 まずハードテイルですが【硬い尾部】という言葉の通り、フレームのリアにサスペンションが無いものを指します。フロントのサスペンションは、あるものと無いもの両方があります。一方のフルサス(Wサス)は、前後共にサスペンションが付いているものを指します。

ハードテイルはフレームのリアにサスペンションが無い自転車です

 ハードテイルは10万円以下から手に入るモデルも多く、入門用としてまず購入される方もいらっしゃると思います。シンプルな構造なので、自分の力を直接地面に伝えやすかったり、軽くて取り回しがしやすいのが特徴です。逆に言うと地面からの衝撃も直接伝わってくるので、トラクション(荷重)のかけ方や衝撃吸収(抜重)など、自分の体でコントロールしないといけない部分が多く、スキルアップの目的としてもオススメです。

フルサスは前後ともにサスペンションが付いています

 フルサスは構造が複雑な分、自転車の価格は20〜30万円くらいがスタートになってしまいます。メリットは前後のサスペンションが衝撃をしっかり吸収してくれること。さらにトラクションもコントロールしやすくなるため、登りも含めて悪路での走破性が高いです。難点はサスペンションユニットやリンク(可動部)が増える分、重量がかさんでしまう点。またペダリングのパワーもある程度サスペンションに吸収されてしまうので、ライダーにはよりパワーと持久力が必要になってきます。

それぞれの適した場面は?

 ハードテイルはクロスカントリー(XC)のようなエンデュランス系だけでなく、ダートジャンプ用といった使い方もあります。また入門者の方が普段は街乗りに使って、たまに山でのオフロードライドを楽しむような場合もあるでしょう。ハードテイルは衝撃吸収がそれほど必要ない、かつスピード維持が必要な場面で使うのに向いています。ただし乗りこなすには、バイクに頼らない衝撃吸収やトラクションコントロールといった、スキルが必要になってきます。これは逆に言うとスキルの存在を体感しやすいということでもあり、マウンテンバイク初心者は、最初はハードテイルに乗る方がスキルが付きやすいですね。

 フルサスはよりハードな路面をより速く走ろうとした場合に適しています。フルサスと一言に言っても、サスペンションの動く量によって用途が変わってきます。XC(クロスカントリー)バイクのようなエンデュランス系は80〜120mmほど。トレイルバイク、エンデューロバイクと呼ばれるものは100〜150mmほど。DH(ダウンヒル)バイクは180mm〜200mmほどになります。動く量が増えれば増えるほど、より衝撃を吸収してくれますので下向きのバイクとなります。その分重量も増えてしまい、体力やサスペンションを扱うスキルが必要となります。

フルサスバイクはよりハードな路面の走行に適しています

 ほかにもフルサスの場合、サスペンションの力をうまく利用することで、反発の力を使ってジャンプをより高く飛ぶようなこともできます。オフロードライディングのスキルに加えて、フルサスの性能を引き出すスキルを付けることで、下りをより楽しむことができるようになります。うまくコントロールできれば、デメリットよりメリットの方が優ることが多いでしょう。

メンテナンスの違い

 実際に使うにあたって知っておきたい点として、乗り味や乗り方だけでなく、メンテナンスの手間の違いがあります。これは明らかにフルサスの方がメンテナンスが必要になります。

 ハードテイルの場合、基本的にメンテナンスをするのはタイヤや、チェーンやギヤ、ブレーキといったコンポーネントと、フロントサスペンションが付いている場合でも、ご自身で日頃のメンテナンスは可能ですし、比較的整備が必要な部分が少ないです。

 一方でフルサスの場合、ハードテイルで必要な部分に加えて、リアサスペンションの分が丸々増えます。リアサスを構成するリンクの可動部にはベアリングが入っていますが、使っているとどうしても泥や雨が侵入して消耗してしまいます。こうした可動部のメンテナンスは、ときにはベアリングの打ち替えを伴うなど、なかなか手間のかかる部分で素人では難しい作業となります。また、サスペンションユニット自体のメンテナンスも定期的に必要です。

フルサスはサスペンションユニットが増える分、メンテナンスやチェックする項目が増えます

 フルサスのバイクのメンテナンスはいろいろ気を付ける部分が多いので、必ず専門のショップを利用してほしいと思います。僕も信頼できるショップやメカニックにお願いしています。

まとめ

 いろいろ説明しましたが、最後にまとめです。

 ハードテイルは、少ない予算で始められて維持費も比較的安価で、入門者がマウンテンバイクの楽しさに触れながら、基本的なバイクコントロールのスキルを学ぶのにおすすめです。路面状況がそれほど悪くない場所であればハードテイルで十分対応できますし、速さより自転車のダイレクトなコントロール性を楽しみたいという人にも、ハードテイルが向いていると思います。

 フルサスは初期投資やメンテナンス費用がそれなりにかかりますが、ハードな路面でも、より安全に、より速く走れます。本格的なフィールドでハイスピードのオフロード走を楽しみたいなら、フルサスがおすすめです。

 参考になりましたでしょうか? 最後までご覧いただき、ありがとうございました。