ヒルクライムのゴール地点は冬… 季節の変わり目はウェアの選択に注意!しくじりサイクリスト<1>

2025/04/21    

 自転車乗りなら「あるある」と苦笑してしまうエピソードからプロの失敗談まで、人の振り見て我が振り直す連載『しくじりサイクリスト』。『Enjoy sports bicycle』の編集部員・後藤恭子がお届けする失敗談は、季節の変わり目の出来事。季節の変わり目のヒルクライムは、知らないうちに違う季節に行ってしまうことがある、というお話です。

“しくじり”は長野県の美ヶ原高原で起こった…

力を過信?甘かったウェアチョイス

 季節は11月上旬、長野県の「美ヶ原ビーナスライン」をヒルクライムしたときのお話です。

 当時の自転車歴は1、2年目くらいだったでしょうか。坂を征服する達成感に魅了され、ヒルクライムが楽しくなってきた頃のこと。長野県の茅野市から美ヶ原高原を結ぶビーナスラインに挑戦しました。標高は約2,000m。白樺湖からスタートし、アップダウンを繰り返しながらアプローチ、最後にがっつりヒルクライムが待ち受けるという往復約80kmのコースという、当時の自分にはチャレンジングなコースでした。

風もなく鏡のような水面の白樺湖

 秋も深まっていたとはいえ、天気もよく、スタート時は風もない小春日和。そんなポカポカ陽気のなか、自分の力を過信していたのか「アップダウンもあるし、これから気温もあがるし、暑くなるから防寒着はそんなにいらない」と判断。荷物を極力軽量化したいという思いもあり、長袖ジャージ&フルレングスのレーパンという秋用装備にウィンドブレーカーを持参するだけの軽装で臨むことにしました。

 この甘いウェアチョイスが、のちのち悲劇を呼ぶことになりました。

体温維持に苦戦

 スタート序盤、色づいた森を横目に元気に走り始めましたが、普通の上り一辺倒のヒルクライムコースとは違い、アップダウンが激しい行程。上っては下りの繰り返しの苦行に、「上った分、全部下ってるのでは??」と、ストレスがたまってきた頃に気づきました。ヒルクライムでかいた汗が下りのときに冷え、服が濡れて冷たくなっていたのです。

 アップダウンしながらも確実にあがっていく標高。それに反比例して下がっていく気温。脚を止めると体温が奪われそうになります。「自己発熱するしかない!」と、ゴールまでノンストップでいくことに。ゴール後すぐに下れば良かったのでしょうが、寒気と予想以上の疲労感で、温かいものを飲んで回復しなければ、と近くにあった「山本小屋ふる里館」に駆け込みました。

 しかし、休憩中もいまいち体温が上がらず、むしろ汗を含んだウェアが乾かず体温が奪われていきます。「気温が下がっている?」─。窓の外に目をやると、少し前まで晴れていた空に曇天が立ち込み、それとともに気温もみるみる低下。強く吹き付ける北風は、もはや冬のそれでした。

窓の外はみるみる冬の様相に…

 こちらの装備は乾き切ってないウェアに、ペラペラのウィンドブレーカー1枚。手袋はかろうじてフルレングスでしたが薄手。すでに寒気を感じている状態でダウンヒルをしたら低体温症になるどころか、バイクコントロールも危うい。「詰んだ…」。そこは宿泊施設でもあったので、そこで一晩しのぐを本気で考えたくらい外に出ることに恐怖を覚えました。

 しかし、これ以上逡巡していても状況は悪くなるばかり。ダウンヒルとはいえ、ところどころにアップがあり、発熱するポイントもあるはず。「えいっ!」と意を決し、まるでバンジージャンプをするような気持ちで自転車にまたがって坂道を下り始めました。

自由ゆえに求められる判断力

 命からがら下山。約40kmにおよぶ復路の記憶はほぼありません。ただ、標高が下がるにつれ風はおさまり、日差しが戻って気温も上昇。寒暖差と緊張による疲労感に包まれながら、まるで別の季節にワープしたような感覚を覚えました。

 いま思えば、11月の長野で2000m級の山岳を走るということのリスクに対して無防備すぎて、完全に「しくじった」のですが、発汗と気温のバランスがこんなに命取りになるということを初めて身をもって経験した出来事でした。以来、季節の変わり目、とくに秋→冬、冬→春に標高が高いところを走ることが想定される場合は、休憩時に保温できる軽量なインナーダウンをサドルバッグに必ず携行していくようになりました。

 狭い範囲でしか移動できない徒歩やラン、そして守られた環境で広範囲を移動できるクルマと違い、自転車は無防備ながら走力次第で自由に広範囲を移動できてしまいます。その分、様々な自然環境にさらされることもあり、想定外の過酷な状況にさらされることもあります。

 長距離、高難度のライドをする場合、自分の体力と気象条件のバランスを考えた行程はもちろん、急な天候の変化や万が一のトラブルも想定した備え(とくに防寒と補給)は必要不可欠だと痛感したのでした。

写真・文:後藤恭子(ごとう・きょうこ)

アウトドアメーカーの広報担当を経て、2015年に産経デジタルに入社。5年間にわたって自転車専門webメディア『Cyclist』編集部の記者として活動。主に自転車旅やスポーツ・アクティビティとして自転車の魅力を発信する取材・企画提案に従事。私生活でもロードバイクを趣味とし、社会における自転車活用の推進拡大をライフワークとしている。

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