「乙女ギヤ」は自由の象徴! 走る世界を広げるスプロケットの進化初心者のためのスポーツ用自転車基礎講座<14>
「スプロケット」、略してスプロケ。チェーンの動きを軸に伝える(もしくは軸の回転をチェーンに伝える)ための歯車のことです。その本来の意味を勘案すると、クランクに付く歯車もスプロケットなのですが、自転車業界では慣習的にそこは「チェーンリング」と呼び、後輪に付く歯車のみがスプロケットと呼ばれています。

低速に進化することで「遊び場」を広げる
スプロケットは8~12枚ほどの歯車が組み合わさった部品ですが、この歯数が昔に比べてかなり大きくなっています。

例えば今から10年前、ハイエンドロードバイク用のコンポーネントに用意されていたスプロケットの歯数は、「11-25T」(最小が11、最大が25という意味。歯数差が小さいのでクロスギヤと呼ばれます)が主流でした。
現在は、それが「11-30T」や「11-34T」(こちらはワイドギヤ)あたりが標準になっています。グラベルロードでは、マウンテンバイク(MTB)のようなさらにワイドなギヤも使われています。もちろん、チェーンリングの枚数や歯数、変速段数も関係してきますが、スプロケットの歯数が大きくなれば大きくなるほど、ギヤが軽くなります。

要するに、ロードバイクはどんどん低速をカバーする乗り物になってきているのです。その理由は多段化やプロ選手からの要望、乗り方の変化、ロードバイクの多用途化など様々ですが、我々一般サイクリストにとっては、「キツい坂でも楽に上れるようになる」という大きなメリットがあります。ギヤがワイドになってきたことで、これまで諦めていた上り坂を「遊び場」にすることができるようになっています。
スプロケットは自分仕様に交換可能
バイクにはコンセプト(想定しているフィールド)に合った歯数のスプロケが装着されているため、使用目的に合ったバイクを購入していれば楽しみ方とギヤ比が大きく乖離することはないと思いますが、スプロケットは交換可能なので、自分の遊び方にもっと最適化させることができます。
ただし、部品同士の互換性や、ディレーラーのキャパシティ、チェーンの長さなど、スプロケ交換には専門知識が必要となり、交換作業には専門工具と技術が必須です。「買ったはいいけど付かなかった」、「無理やり取り付けたら部品を壊してしまった」などの悲劇を生まないよう、交換の際はショップに相談してみましょう。
ワイドなギヤはチャレンジャーの証
ロードバイクは近年、電動変速になり、ディスクブレーキ化し、タイヤがワイドになり、空力性能が必須科目になり……と大きく変化してきましたが、最も重要な変化はギヤ比のワイド化でしょう。
電動変速になっても空力がよくなってもディスクブレーキになっても、上れなかった坂が上れるようにはなりませんが、ギヤがワイドになればそれが可能になります。「乗れる人を増やし、走れる場所を増やす」という点では、より多くの人に門戸を開いたのがロードバイクのギヤ比のワイド化です。

かつて、ロードバイクがレース用の自転車で、11-23という歯数が一般的だった当時、11-25や12-27なんていう軽いギヤを付けていると、「今日やる気ないの?」なんて、周りからかわれたものです。「乙女ギヤ」なんて呼ばれ方もしていましたね(今から思えば女性差別かもしれません)。逆に、低速側を切り捨てた11-23あたりは「漢(おとこ)ギヤ」(笑)。確かに当時は「ワイドなギヤ=遅い、カッコ悪い」という風潮がありました。
しかし今は違います。ワイドなギヤは、自由で幅広い楽しみ方をしている証。激坂にチャレンジしている証。少々大袈裟かもしれませんが、かつての「乙女ギヤ」は今、「自由の象徴」「挑戦のための武器」「冒険の勲章」になったのです。

自転車ライター。大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆し、信頼性と独自の視点が多くの自転車ファンからの支持を集める。「今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた」という自称、自転車大好き人間。
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