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サイクルトレインで行く世界遺産ヒルクライム&グルメの欲張り1日コース(和歌山)

Cycling Course厳選サイクリングコース

那智山巡礼から鯨の町太地へ
サイクルトレインで行く世界遺産ヒルクライム&グルメの欲張り1日コース(和歌山)

 海と山の豊かな自然に恵まれた和歌山県は、県全体でサイクリング振興を進めています。県内各地でのコース策定だけでなく、レンタサイクル拠点や立ち寄りスポットも整備。そして和歌山県内の太平洋岸沿いを走るJR「きのくに線」ではサイクルトレインが実施されています。サイクルトレインも活用しながら、自然・文化・世界遺産を楽しむルートを走りました。

オススメポイントユネスコ世界遺産にも登録されている那智山のスポットを巡るヒルクライムから、生鮮マグロの水揚げ量日本一の勝浦漁港を経て、江戸時代より捕鯨で名高い鯨の町・太地で鯨にまつわる文化に触れます。和歌山県内で実施されているサイクルトレインも利用して、たっぷり一日コースで南紀勝浦近辺を堪能します。
レベル★★(中級者向け)
距離 35.4km
獲得標高 582m
発着地JR紀伊勝浦駅
立ち寄りスポット大門坂、那智の滝、熊野那智大社那智山青岸渡寺勝浦漁港にぎわい市場道の駅 たいじ太地町立くじらの博物館

3タイプのサイクルトレインが運行

 2023年9月現在、JR「きのくに線サイクルトレイン」は、和歌山駅~新宮駅間で実施されています。利用方法は3タイプ。いずれも追加料金は不要です。

 県南部の御坊~新宮駅で実施されている「サイクルトレイン」は、普通列車(月~土曜朝の通学混雑列車6本以外)に、予約不要で自転車を解体せず、そのまま持ち込むことができます。車内では自転車を手すりに固定する必要があり、紐などを用意して乗り込みます。

 また同じく県南部の白浜駅~新宮駅間で実施の特急「くろしおサイクル」は、特急くろしおに専用カバーをつけるだけで自転車を分解せず持ち込み乗車できるというもの(白浜、串本、紀伊勝浦、新宮の4駅のみ乗降可)。乗車時に駅で専用カバーが無料で貸し出されます。実施区間の全列車で6号車をサイクリスト専用車両とし、通常の運賃と特急料金のみで利用できます。

白浜駅ホームには特急「くろしおサイクル」の専用カバーを着脱するためのスペースがありました

 さらに2023年8月より実証実験が始まった「サイクルトレインプラス」は、県北部の和歌山~御坊駅間の各駅で実施。列車限定・要ネット予約ながら、県南部と同様に、自転車をそのまま普通電車に持ち込み乗車できます。

 サイクルトレイン利用のメリットは気軽に「ワープ」ができること。片道ルートを走って復路は電車、という使い方はよくあるパターン。その他アップダウンの多いキツい区間や、あまり変化が無く距離だけが長いような区間を電車移動とすることで、体力と時間を節約することができ、サイクリングのプランの幅を広げることができます。これらは輪行(自転車を袋に詰めて公共交通機関を利用すること)と同じメリットですが、サイクルトレインがうれしいのは、輪行時の面倒な自転車の分解・組立が省略できる点と、輪行袋の携帯が不要という点。身軽でラクということです。

紀伊半島の南の果てを満喫

 今回は「きのくに線サイクルトレイン」ページで紹介されているレンタサイクルモデルコースから、「【那智勝浦】那智山巡礼と大地の鯨に出合うコース」を実走しました。特急くろしおでアクセスするとレンタサイクルが割引になる特典もあります。今回はロードバイクを持ち込みましたが、本格スポーツバイクやe-BIKEがレンタルできるコースもあるので、身軽にアクセスできるレンタサイクル利用もおすすめです。

 コースの発着点は紀伊勝浦駅。南紀エリアは大阪からでなく名古屋からもアクセスできるのですが、紀伊勝浦は大阪・名古屋からともに特急でほぼ4時間ちょうど。つまり両方から一番遠い“南の果て”と言えるかもしれません。4時間というのは新幹線で大阪から東京まで行っても、さらに1時間半余る(帰りの名古屋近くまで来られてしまう)という遠さ。日帰りでサイクリングを楽しむのはキツいので、前泊するのが断然おすすめです。

 ちなみにレンタサイクルは、駅最寄りの那智勝浦町観光案内所で借りることができます。余分な荷物はコインロッカーなどに預けて身軽に出かけましょう。観光で歩く時間も多めなので、ロードバイクの人も、軽量な靴を別に持って走るのがおすすめです。

紀伊勝浦駅前には足湯も。その横にはレンタサイクルも取り扱う観光案内所があります

珍しい「道」の世界遺産をゆく

 コース前半は那智山へのヒルクライムです。那智山は修験道の聖地「熊野三山」の一つとして古来より信仰を集めてきました。修験道とは山岳信仰に仏教などが合わさった、古代日本からの宗教形態です。熊野三山に通じる参詣道「熊野古道」は2004年、ユネスコ世界文化遺産に「紀伊山地の霊場と参詣道」として登録。那智山では参詣道のほか熊野那智大社、青岸渡寺、那智大滝などが構成資産として登録されています。

 駅を出発して3kmほど走ると、那智山方面に向かう上りがゆるやかに始まります。序盤は勾配2~3%程度が続き、川沿いの景色を楽しみながら進みます。

海辺からすぐに山あいとなるのが和歌山の面白さ。緑の中にところどころ切り立った岸壁なども現れる

 4kmほど進むと「大門坂」の駐車場があります。大門坂は熊野古道のいにしえの姿を色濃く残しており、かつて坂の入口に通行税を徴収する大門があったことから、この名が付いたそうです。世界遺産スポットなので、自転車を置いて少し散策してみましょう。駐車場の少し先が大門坂の入口。鳥居をくぐると本格的に石畳の参道となります。

石畳が敷き詰められた大門坂の参道

 靴を持参した方がいいというのは、ここが大きな理由。ロードシューズで歩くのは困難というか、やめておいた方がいいです。樹齢数百年の木々の間を抜けて坂を上がっていきます。県道に出合うあたりまで歩けば大体の雰囲気は楽しめるでしょう。引き返して再び自転車に乗り込みます。

雄大な那智の滝が眼前に

 大門坂の先は本格的なヒルクライム区間に突入します。といっても勾配は5~6%程度が続くので、慣れた人であれば軽いギヤでのんびり走れば、さほどキツいとは感じないでしょう。木々の間を抜け、ヘアピンカーブをいくつも抜けると、突然眼前に大きな滝が見えてきます。大門坂から2.5kmほど。これまた世界遺産スポット「那智の滝」(那智大滝)です。

キツすぎない程度の勾配ですが、頑張るとキツいので頑張りすぎないよう淡々と上りましょう

 道路からでも滝はよく見えますが、せっかくなので近くまで行って見てみましょう。飛瀧神社という滝自体を御神体とした神社でもあります。滝への入口にはサイクルスタンドもあります。徒歩で2分程度ですが、階段がそこそこ長いですから、やはり靴があった方が安全安心です。

落差133m。とにかく雄大で美しい那智の滝

 那智の滝から数百mほど坂を上りと、すぐに熊野那智大社への参道入口に着きます。ここから歩いて参道を登るのもOKですが、石段が470段もあるそうなので、自転車で上まで行ってしまいましょう。

 参道入口の少し先に行くと、右手に社務所駐車場への道が分かれています。ここを上ると神社の社務所横まで自転車で上ることができます。が、この道がなかなか…。これまでのお気楽ヒルクライムはどこへやら。勾配15%前後の急勾配が、約500m延々と続きます。石段470段の方がマシだったかも…というか絶対に石段の方がマシなので、急坂の刺激を求めているということでなければ、歩いて登った方がいいでしょう。

社務所への急勾配。後悔するか興奮するかは走る人次第

 駐車場から少し石段を登り、朱色の大鳥居をくぐると社殿が並ぶ境内となります。隣接する青岸渡寺はかつて那智山(那智大社)の一部でしたが、明治政府が神仏習合を廃し、神社と寺を明確に分けることとしたため、新たに独立した寺院となったもの。とはいえ今も、見た目には完全にひとまとまりです。青岸渡寺の裏にある売店で、名産の那智黒(黒飴)を使ったソフトクリームを頂きました。ちなみに青岸渡寺側にはもう1つ上り道がありますが(お寺の防災道路)、こちらは自転車通行禁止となっています。

那智大社の境内
那智大社に隣接する青岸渡寺
名物・那智黒を使った黒飴ソフトクリーム

生マグロ水揚げ日本一の勝浦漁港

 那智山を後にして、勝浦の市街に戻りましょう。下りは思った以上にスピードが出やすいので、適度にブレーキを使ってスピードコントロールを心がけましょう。

 勝浦の漁港に行く前に、少し横道にそれてみると、天然の入り江(浦)が開けていました。地名上ではここが「勝浦」なので、古くはここが漁村としての拠点だったのかもしれません。

静かな勝浦の入り江

 勝浦漁港は生マグロの水揚げ高が日本一だそうです。港の市場に隣接してあるのが「勝浦漁港にぎわい市場」。生マグロのグルメや、マグロの解体ショーなどを楽しむことができます。せっかくだから生マグロを味わいたい!…というところだったのですが、残念ながら取材した日は週に一度の定休日(火曜定休)。訪れる際にはお気を付けください…。

 結局、他の開いているお店で、マグロ丼を頂きました。普段食べるマグロがサクッとした感じとすれば、生マグロはプリッとした感じで美味でした。

勝浦漁港に直結の「勝浦漁港にぎわい市場」
生マグロはぜひ味わっておきたいところ

 補給完了したので、次の目的地、太地町に向けてスタートします。といっても10kmもない道のり。この付近は太平洋岸自転車道の一部になっています。国道42号線に入ると、すぐに湯川トンネルがありますが、自転車は隣にある旧トンネルを自動車を気にせず通ることができます。またすぐ先のトンネルの横にも自転車道の標識がありますが、何故か途中に階段があるという造りなので、こちらは通らず国道のトンネルを行きましょう。

自転車歩行者専用になっている旧湯川トンネル

鯨の町を見て・食べて・学んで満喫

 勝浦漁港から5km少々走ると、太地半島への入口の分岐があります。ここには「道の駅 たいじ」があり立ち寄りスポットにもなっています。レストランでは鯨料理も提供。ちなみに営業時間がランチ時のみなので要注意です。鯨の竜田揚げや鯨カツなど定番もありますが、どうやらイチオシらしい「鯨スタミナ丼」を頂きました。たっぷりこってりのボリューム感で大満足。ただし、勝浦のマグロ丼と短時間ではしごするのは無謀かもしれません。道の駅では食事だけでなく、鯨関連も含めた地元の物産を購入できます。町内観光の帰りにも立ち寄れる場所なので、お土産は帰りの際でもいいかもしれません。

太地半島の入口に位置する「道の駅 たいじ」。かわいいクジラポストは町内各所に
ボリュームたっぷりの鯨スタミナ丼

 太地町は古式捕鯨発祥の地で、今から400年前の慶長11年(1606年)に太地浦を基地として、大々的に突捕り法による捕鯨が始まりました。紀州藩の保護もあり、長年捕鯨の本場として栄えた太地。明治に入り古式捕鯨は廃れましたが、古式捕鯨の伝統を受け継ぎながら近海での小型捕鯨が続けられているほか、南氷洋捕鯨の乗組員として町から参加する者も多いなど、「くじらの町」としてのアイデンティティは現代まで息づいています。

太地半島の入口にある二頭の親子クジラ(ザトウクジラ)の実物大モニュメント

 鯨の町として知られる太地町ですが、ロード系サイクリストには、20年以上続く国際自転車ロードレース「ツール・ド・熊野」の舞台のひとつとしてもおなじみかも知れません。レースのスタート・ゴール地点になっているのが、「くじら浜公園」。公園内にはモニュメントのほか、実際に使われていた捕鯨船も展示。そして目的地でもある「太地町立くじらの博物館」があります。

南国の雰囲気ただよう道路。レースではゴール目前の直線です
「くじら浜公園」には捕鯨船の実物も。晩年は調査捕鯨に使われていたため「RESEARCH」の文字
「くじらの博物館」では鯨の生態や捕鯨の歴史などを学べます。鯨の巨大さを実感できる圧巻の骨格標本も

 この博物館はクジラの巨大な骨格標本の展示や、その生態の解説、太地町での古式捕鯨や、クジラや捕鯨文化に関する企画展など、クジラに関するさまざまなことを知ることができます。屋外ではイルカショーやクジラショー、餌やり体験など各種ふれあい体験を実施しています。

クジラショーはちょっと珍しいかも?

 また奥の方にある別館「マリナリュウム」では、熊野灘でみられる魚類の展示のほか、イルカの巨大水槽を“中から”眺めることができ、幻想的な風景を楽しむことができます

マリナリュウムでは幻想的な世界を堪能できます

サイクルトレインでのんびり帰還

 想像以上に盛りだくさんだった博物館を後にして、太地町内を少しだけ巡ります。太地漁港の入り江では、かつて捕獲した鯨を浜に上げて解体したそうですが、今は普通の漁港になっています。漁港を抜けた先は切り立った台地への上り。太地の古式捕鯨で総指揮所だった燈明崎の山見台跡は高台の岬にありますが、もう坂を上る気分ではないのでUターンして駅に向かいます。

 そこそこ走って、歩いて、食べて、見て回って…ということで、発着点の勝浦まで10km足らずですが、自走して帰る気がしません。こういう時にサイクルトレインなら、気軽に電車移動を選択できるのが便利。自転車を押してそのまま改札を通過して、そのまま普通電車に自転車を持って乗り込みます。車内に自転車ラックなどの設備は無いのでゴムや紐などを準備し、自転車は手すりなどに固定するようにしましょう。

御坊駅〜新宮駅間の普通電車は終日ほぼ全列車がサイクルトレイン対象。自転車をそのまま押して改札を通りホームへ。そのまま電車に持ち込めます
自転車が不意に動かないよう、ストラップなどで固定しましょう

 2駅乗って紀伊勝浦駅に到着。短い距離ですが、冷えた脚と膨れたお腹で最後の数kmを走らずに済み、気持ち良くサイクリングを終えることができました。帰りの特急くろしおまでは2時間ほど余裕があるので、日帰り温泉で汗を流して、ゆっくりお土産も探してから帰りましょう。4時間の帰路を揺られながら、今度はどのあたりで走ろうかな?などと考えてしまいました。

帰路は輪行しましたが、輪行って面倒だなぁと思いながらパッキングしました
文: 米山一輝(よねやま・いっき)

スポーツサイクル歴約30年の自転車乗りで元ロードレーサー。その昔はTOJやジャパンカップなどを走っていたことも。幅広いレベルに触れたクラブチームでの経験を生かし、自転車スポーツの楽しみ方やテクニックをメディアで紹介しています。ローラーより実走、ヒルクライムより平坦、山中より都市部を走るのが好きです。

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