2021.9.14
私が自転車ロードレースチームをサポートさせてもらった時に驚いたことの1つが、レース中に補給食を食べることでした。野球は自チームが攻撃の時やグラウンド整備中に少し時間ができるので、その合間に食べることができますが、ロードレーサーはバイクに乗りながら食べるというのです。サイクリストの皆さんにとってはもはや当然のことだと思いますが、パフォーマンスをしながら補給を摂るというのは、私の知る限り数あるスポーツの中でも自転車競技ぐらいだと思います。
持久系競技においてエネルギー補給は、勝敗を分ける「戦略」にもなります。長時間動き続ける上で、いかに最後までエネルギーを切らさずにいられるか。そのためには、事前にエネルギーを蓄えておくことはもちろん、パフォーマンス中にもできるだけエネルギーを切らさないように補給することです。マラソンでもレース中に給水所が数カ所設置され、特製ドリンクなどで水分と一緒にエネルギーを摂っていますが、さすがに走りながら何かをモグモグ食べている選手はいません。
自転車選手も同じように長距離を走り、膨大なエネルギーを消費する競技ですが、バイクに乗っていると「体が上下することがなく、胃腸に負担がかからないので食べることができる」と聞きました。そうなると、液体ばかりではなく固形物も食べたくなるそうで、レース中の補給食として羊かん等も用意されていました。ただ、やはりレース中にしっかり噛むことは疲れるようで、軽く噛んで食べられるものとしてはてっとり早いエナジー系のゼリーも重宝されていました。
そんな中で、ロードレースにおいて選手たちからとくに人気があった補給食が「ジャムパン」でした。作り方は市販のロールパンを半分に切って中をくり抜き、その中にたっぷりジャムを入れます(私はくり抜いたパンをフタにしていました)。レース前夜に作っておくので、一晩寝かせた(?)ジャムパンは、ジャムがパンに染み込んでしっとり柔らかくなっています。
そのため、あまり噛まなくても食べられるし、何より軽くて美味しいということで人気がありました。エナジー系のゼリーも理には適っているのですが、ずっと同じものをとり続けると飽きてしまうので、気分転換にも良かったのかもしれません。
前任者からジャムパン作りを引き継いだ当初は、ロールパン丸々1個を使って作っていたのですが、選手たちから「微妙に大きくて食べにくい」といわれ、一口で食べられるように半分の大きさで作るようにしました。現在サポートさせてもらっている野球チームでは補給食におにぎりを作っているのですが、通常のサイズのおにぎりはなかなか食べてもらえなかったので、一口サイズにしたところ喫食率が上がりました。補給食はこまめに口にできる食べやすさも大切なポイントになると感じています。
また、補食はエネルギー補給が第一の目的になるので、どうしても糖質がメインになります。ジャムパンもそうですが、糖質ばかり摂取することになるので、摂取した糖質をエネルギーに変えるために必要なビタミンB群も一緒に摂ってほしいと思い、その当時あったビタミンB群のタブレットを入れたこともあります。
ロードレースを走る選手にとっては軽さ、摂りやすさも補給食の重要な条件かと思いますが、一般のサイクリストにオススメしたい補給食としては、王道のバナナがあります。ジャムパンより少し重量は増しますが、1本で約90キロカロリーのエネルギーが摂れます。程よい甘さで、口当たりもソフト。消化に良く胃に負担がかからない上に十分な食べ応えもあるのも、補給食として支持を得ている要因でしょう。
それ以外にもバナナは栄養価が豊富です。糖質以外にもミネラルを豊富に含んでいます。中でも注目していただきたいのはカリウム。カリウムは汗とともに体外へ排出されるため、大量の汗をかくサイクリストにはしっかりとってほしい栄養素です。カリウムが不足すると脱力感を起こしたり、脚のツリを引き起こす要因となり、パフォーマンスに影響を来します。
皮をむく一手間があるので、走りながら食べたい人はラップを使って予め小分けして食べやすくしておくのも良いでしょう。バナナはコンビニにも売っていますので、コンビニに休憩で立ち寄ったときに一本、という感じで摂取するのもおすすめです。
管理栄養士。女子フィギュアスケートバンクーバー五輪銀メダリスト、男子バレーボールVプレミアリーグ所属チーム、ラグビートップリーグ所属チームなどを栄養面からサポート。ロードレースチームの「シマノレーシング」を担当していた経歴をもち、現在も「シマノ鈴鹿ロードレース」で開催される栄養講座の講師を務めている。自転車ロードレースの主要な国内レースは常にチェックしているというロードレースファン。現在はFC今治のサポートの他、トレーナー養成学校でスポーツ栄養学の講師をしたり、栄養学を学ぶ学生のコミュニティ「COMPASS」のアドバイザーとして後進育成に注力している。
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