2022.12.3
グラベルロードという自転車が近年注目されています。定着してきたのは2010年代後半という新しいジャンルで、その走破性や拡張性の高さから幅広い用途に対応し、自由に楽しむことができる自転車です。自転車界の“SUV”ともいわれるグラベルロードの特徴を解説します。
グラベル(gravel)は「砂利」を意味する英語です。ロードはロードバイクを指し、つまり「砂利道も走れるロードバイク」が基本的な意味です。ロードバイクは原則として舗装された道を走る自転車ですが、昔から一部の冒険心が旺盛なサイクリストは、ときおり舗装されていない道(オフロード)も走ることを楽しんでいました。この遊び方が広がるなかでロードバイクから分化してきできたのが、グラベルロードです。
オフロードを走る自転車としては、すでにマウンテンバイクが存在しますが、グラベルロードは基本オンロード中心に走り、要所要所でオフロードの走りをスパイス的に楽しむ想定です。ロードバイクのスピード性能も兼ね備えていることから、あらゆる道を組み合わせたロングライドを可能にしています。クルマで言えば、まさにSUVのような性格だといえるでしょう。
当初はロードバイクに太いタイヤとディスクブレーキを付けたくらいの違いでしたが、ジャンルとして定着・進化するなかで、ブランドやモデルごとに個性が生まれ、元々のロードバイクから離れた自転車になりつつあります。呼び名もオールロード、アドベンチャーロード、グラベルバイク、アドベンチャーバイクなどさまざまですが、いずれもロードバイクから分化した未舗装路にも対応するスポーツバイクとして、大きくグラベルロードの仲間として一括りにできるでしょう。
グラベルロードの特徴としてはまず、未舗装路を走破するために、従来のロードバイクよりも太いタイヤを装着できることです。また泥詰まりを防ぐために、車輪とフレームとの隙間(クリアランス)が大きく取られています。フレームは安定性を重視したジオメトリーが採用され、ロードバイクよりも乗車姿勢が起きた、アップライトなポジションになる傾向があります。
従来のロードバイクが採用していたキャリパーブレーキ(リムブレーキ)は太いタイヤに干渉しやすいことから、グラベルロードでは本家ロードバイクよりも一足先に、ディスクブレーキの装備が標準的になっています。ディスクブレーキは雨や泥でも性能が落ちにくく強力なブレーキ力を発揮できることも、過酷なコンディションも走ることがあるグラベルロードに適した装備といえるでしょう。
また、未舗装路を走るために、フレームのショック吸収性能が高く設定されています。太いタイヤと相まって、舗装路ではかなり乗り心地のよい自転車と言えるでしょう。未舗装路の走りを重視するモデルでは、ドロップハンドルの下側が広がった(フレア)ハンドルが好まれる傾向があります。
ホイールはロードバイク同様700C(27インチ)が基本ですが、若干小さい650Bホイールを使ってさらに太いタイヤを装着する場合もあります(車輪全体の外周の大きさはほぼ同じ)。従来のリムブレーキでは構造上こうした異径ホイールの使い分けは困難でしたが、ディスクブレーキの採用で選択肢が広がった部分です。
近年はグラベルレースも増えてきましたが、元々は冒険ツーリング的な楽しみ方が発祥なので、自転車本体に荷物を収納できたり、バッグ類の取り付け用のネジ穴が設けられていたりするモデルも少なくありません。ツーリングをより意識したモデルなら、本格的なキャリア(荷台)やドロヨケも装着でき、数日〜数週間の旅にも対応できるでしょう。
グラベルロードの遊び方は自由です。ロードバイクでは避けていたような荒れた道も、グラベルロードでは最高のフィールドに変わります。今までに通ったことがない道を組み合わせれば、近場でも新たな世界が広がるでしょう。悪路で自転車をコントロールする楽しさは、ロードバイクとはまた異なった、一瞬一瞬の面白さを味わうことができます。
グラベルロードはまた、最高のツーリングバイクでもあります。気楽に走って景色を楽しみつつ、どこか眺めの良い場所でコーヒーを淹れてまったりした時間を過ごす、なんて使い方もありです。グラベルロードは荷物の積載に対応しているものが多く、安定性を高めた設計になっているので、ロードバイクほど苦心せずにバイクパッキングを楽しむことができます。
また、太いタイヤの安定性と乗り心地、アップライト傾向の乗車ポジションは、街乗りや通勤・通学用としても良いチョイスになります。タイヤクリアランスが十分にあるのでドロヨケも付けやすく、ディスクブレーキが標準的であることも含めて、雨でも安全・快適な通勤スペシャルに仕立てることも可能です。
「グラベル=砂利」という言葉に注目すると特殊な自転車に感じるかもしれませんが、むしろ何でもありのオールマイティーさが魅力といえるでしょう。自由な発想で幅広い遊び方・使い方ができるのが、グラベルロードなのです。
スポーツサイクル歴約30年の自転車乗りで元ロードレーサー。その昔はTOJやジャパンカップなどを走っていたことも。幅広いレベルに触れたクラブチームでの経験を生かし、自転車スポーツの楽しみ方やテクニックをメディアで紹介しています。ローラーより実走、ヒルクライムより平坦、山中より都市部を走るのが好きです。
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