2019.6.25
自転車ロードレースは、壮大な景色を見ることができ、プロの実力を身近に感じやすい競技であると前回お話しました。今回は「路上のチェス」とも称される自転車ロードレースの競技性について、醍醐味をお伝えしていきます。
レースの目的は、シンプルに一番でゴールすることです。マラソン選手が42.195km走って、一着でゴールできれば金メダル獲得、というような話と一緒です。マラソンであれば、序盤から最後まで先頭で走っていた選手が勝つということがあるかもしれませんが、自転車ロードレースで同じことをするのはほとんど不可能です。
なぜなら、時速40〜50km程度のスピードで進行する自転車ロードレースにとって、空気抵抗の影響が非常に大きくなるからです。空気抵抗は速度のおよそ二乗に比例して大きくなるため、時速20kmで走行する場合と、時速40kmで走行する場合では後者が受ける空気抵抗は4倍大きくなる計算です。また平地を時速40kmで走行する場合、ペダルを踏んで生み出すエネルギーのうち、8割以上が空気抵抗と相殺されることになるのです。
自転車ロードレースは空気抵抗との戦いといっても過言ではありません。レースで勝つためには、いかに空気抵抗を受けないようにするか考える必要が出てきます。どのタイミングで勝利を狙う選手たちが空気抵抗を受けるリスクを負って、前に出て行くか勝負どころを見極めることも重要です。そのため戦略を持ってレースに挑まないと勝つことは難しいです。
マラソンは基本的には個人競技ですが、自転車ロードレースはチーム競技です。世界最大の自転車レースであるツール・ド・フランスの場合、1チームあたり最大8人の選手が出場可能です。チーム内で最も強い1人のエース級の選手を勝たせるために、残り7人の選手がアシストする、といった「エースとアシストの関係」が生まれてきます。
具体的にどんなことをアシストするかというと、勝利を狙うエースの前を走り、代わりに空気抵抗を受けることがあげられます。とはいえ、アシストもレースの間ずっと先頭で空気抵抗を受け続けることは不可能に近いため、数人で先頭を交代しながらエースが空気抵抗を受けなくて済むようにすることが多いです。
そうして力を温存したエースが、勝負どころで前に出て先行していく展開を狙うのです。もちろん、すべてが狙いどおりにうまく事が運ぶとも限りません。他のチームの狙いを打ち破るために、エースとアシストが連携して崩しにかかるような駆け引きが生まれます。
もし選手がレース中にパンク、チェーンの脱落、フレームの破損などにより、走行できない状態に陥った場合、集団の後方を走っているサポートカーから新しいホイールに交換してもらう、またはスペアバイクに乗り換えるなどして、できる限り早く再スタートできるようにします。
しかし、道が狭かったり大勢の選手が落車するなどして、すぐにサポートカーがエースのそばに行けない場合は、アシストが乗っていた自転車をエースに差し出して乗ってもらうことがあります。中には自分のホイールを外して、手際よくエースの自転車のホイールと交換できるアシストもいます。
エースが再スタートを切った後は、遅れたエースの前に立ち、代わりに空気抵抗を受けながら集団に追いつくこともアシストの仕事です。
200kmを平均時速40kmで走る場合、レース時間は5時間となります。長丁場のレースにおいて、エネルギー補給・給水は必要不可欠です。サポートカーから補給食やドリンクボトルを受け取って、エースや他のチームメートたちに配ることも、アシストの仕事です。
このようにアシストの仕事は多岐に渡ります。共通していえることは、エースの勝利のためであれば、どんな仕事でもやるということです。エースが勝負どころで力を発揮するために、徹底的なサポートでエースの力を温存させるのです。そうしたアシストの忠誠心には、胸を打たれます。まるで、戦国時代の君主と配下の武将たちの関係を見ているかのようです。
高速域で行われる自転車ロードレースは、エースを空気抵抗から守るためのアシストの存在なくして成り立ちません。そのアシストの献身的な働きがあるからこそ、エースの勝利も敗北も美しく見えるのでしょう。
次回は更に具体的なレース展開について解説していきます。
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