2023.12.10
10年ほど前の話ですが、自転車ショップに行くと天井からスポーツバイクのフレームだけがたくさんぶら下がっていたものです。その頃は、フレームと、コンポーネントやホイールなどのパーツを別々に買って、好きなパーツで一台に組み上げることが一般的でした。カタログには最初からパーツすべてが揃っている「完成車」の価格のほかに、フレームセット価格が併記されていたものです。これを「フレーム売り」などと言います。
フレーム売りのメリットは、まずは「最初から体や目的にフィットしたバイクにできる」こと。ハンドルの幅、クランクの長さ、ステムの長さと角度、サドルやホイールやタイヤの種類、ギヤ比などを、乗る人の体に合わせて組み上げることができます。これを「セミオーダー」といいます。
メーカーが用意する完成車には最初から決められたパーツが付いてくるので、体にピタリとフィットしない、目的と少しずれてしまう、ということが起こり得ます。それを解消するには後々パーツの交換が必要になり、余計なコストがかかってしまいますし、完成車に付いていたパーツが無駄になってしまいます。
完成車の価格は、フレームやパーツの価格を足した総額よりは割安に設定されることが多いですが、サイズの合うパーツに交換することを考えれば、人によってはフレームから組んだ方が良い場合もあります。
また、2台目以降の購入の場合は、それまで乗っていたロードバイクからパーツを載せ替えることで、新車購入の費用を抑えることもできます。だからショップでは、「フレームは決まったな。コンポは11速になった105にする、と。ハンドルとステムとホイールは今乗ってるバイクに付いてるやつを載せ替えるか。そうすればなんとか予算内に収まるだろう」という会話が交わされていたものです。僕もそうして少ないお小遣いでなんとか遣り繰りをして、何台も乗り換えてきました。
しかし、ビッグメーカーがステムやハンドル、ホイールを自社開発し、「このバイクには我々が開発したパーツを組み合わせたときに最高の性能を発揮します」というトータル設計を謳い始めたことで、徐々に完成車販売の割合が増えていきました。
ロードバイクのディスクブレーキ化がそれに拍車をかけます。リムブレーキとディスクブレーキでは、フレームはもちろん、コンポやホイールなど、多くのパーツの作りが変わったため、パーツの流用ができなくなりました。よってリムブレーキ車からディスクブレーキ車に乗り換えるとき、多くの人が完成車を購入したのです。
そんな事情が絡み合い、現在は完成車販売の割合がかなり大きくなりました。しかし今でも、「好きなパーツで組んでもらいたい」「パーツ流用ができるフレーム販売にしてユーザーの負担を減らしたい」などの理由で、フレームセット販売を続けているメーカーはあります。自転車の価格が上がってしまった今後は、フレーム売りに再び注目が集まるのではないかと思っています。
フレームから組むということは、自分のポジション、実力、目的、パーツの種類と規格、フレームと各パーツとの相性など、考えなければならないことがたくさんあります。しかしその分、自転車に対する理解が深まり、新車に対する愛情も大きくなります。
それに「コンポは思いきってあの新型をフンパツして、ハンドルとステムはお気に入りのものにして、シートポストは軽いカーボンにして、サドルとバーテープはフレームのカラーに合わせて赤にして、ホイールは流用するけどタイヤはあの新作にして…」と、新車をどんなパーツで組むかを考えるのは、何物にも代えがたい至福のときですよ。
自転車ライター。大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆し、信頼性と独自の視点が多くの自転車ファンからの支持を集める。「今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた」という自称、自転車大好き人間。
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