2024.2.1
スポーツ用自転車を探しにショップに行くと、数十万円というプライスタグをぶら下げているモデルはざらで、高いモデルになると100万円や200万円にもなります。「これ、一桁間違っていますよね…?」と言いたくもなります。なぜ、スポーツ用自転車はそんなに高価なのでしょうか。ロードバイクに焦点を当ててその理由を紐解きましょう。
第一の理由は開発費と素材、そして製造コストです。最近のロードバイクは、軽さ、駆動効率、空力性能などを高めるために、コンピュータシミュレーションや風洞実験などを繰り返しながら開発されます。
言うまでもなくそれらには膨大なコストがかかります。風洞実験施設を1日借りようとすると数百万円。流体解析や構造解析のためのシミュレーションソフトだって1ライセンスにつき数百万円。市場調査、企画、設計、試作、テスト、フィードバックを受けて設計変更、再び試作、テスト……と、その全ての行程に多大なコストがかかります。
何人ものエンジニアがこの作業を数年かけて行っています。それらにかかる開発費が売価に反映されるため、高価になってしまうのです。
また、一般的な自転車に比べて軽く強く作る必要のあるロードバイクは、フレームやパーツの材料にもコストがかかります。本格的なロードバイクのフレームやパーツに使われるカーボン(炭素繊維強化樹脂)は、レーシングカーや航空機にも使われる材料で、鉄やアルミに比べると非常に高価。そのカーボンにも様々なグレードがあり、ハイエンドロードバイクには高いグレードのカーボンが使われます。ざっくりですが、グレードが一つ上がる毎に材料費は倍になります。
そのカーボンは、材料の状態だとペタペタとした粘着性のあるシート状ですが、それを金型(金属製の型)に寸分の狂いなく貼っていかなければなりません。シートの数はフレーム1台分で数百ピースにもなりますが、その作業を行うのは職人です。
その後、金型に熱と圧力をかけて焼き固め、型から外したフレームをチェックし、必要があれば補修を行い、ブランドロゴを貼って何色もの塗装をし……と、カーボンフレームは全て人の手で作られます。一般的なママチャリなどと比べ、1台あたりの人件費はかなりのものになります。
ちなみに、金型もびっくりするほど高価。フレーム1本分の金型で高級車が買えてしまうほどです。何種類ものフレームサイズがあるロードバイクは、この金型がいくつも必要になります。
とはいえ、やはりロードバイクは高価に思えますよね。ハイエンドモデルになると200万円にもなるロードバイクですが、200万円あれば高性能な自動車が買えます。オートバイなら最高級グレードが視野に入ります。
同じ200万円でも、自転車はフレームとホイールと、コンポやサドル、ハンドルなどのシンプルなパーツだけ。一方、自動車なら大きくてがっちりしたボディにエンジン、変速機、内装、エアコン、オーディオ……と、素人目に見てもかかっているコストに大差がありそうです。それら全てにかかる開発費は、自転車とは桁が違うでしょう。
ロードバイクが高価になってしまうもう一つのキーワードが生産台数です。軽快車などの一般的な自転車は数万~数十万台が作られます。しかしロードバイクは(もちろんモデルによって生産数に幅はありますが)、軽快車より大幅に少なくなります。
単純に考えれば、かかった開発費は販売台数で割って1台あたりの価格に上乗せしなければビジネスとして成り立ちません。開発費がかかり、販売台数が少ないロードバイクは、それだけ高価になってしまうのです。
さらに、工場や本社がある海外からの輸送費もかかりますし、ビッグメーカーになればプロチームへの機材供給費用も必要です。もちろん広告などのプロモーション費用もプラスされます。為替などの世界情勢も絡んできます。実際は、他社のライバル製品の価格を鑑みて、「このくらいの価格帯にニューモデルを投入しよう」と企画し、利益が出るように逆算して開発・製造コストを決めるケースもあるとは思いますが…。
それらの結果、「一桁間違っているのでは…?」という価格になってしまうのですが、「それだけの価値がある」のかどうかは、人の価値観によって変わります。いくら安価な自転車でも、それが全く何の役にも立たないのなら、「高すぎる買い物」です。150万円の自転車でも、それを手にすることによって自分の人生が150万円以上に楽しく幸せになったと感じられるのなら、それは「安い買い物」になるでしょう。
数千万円~数億円という自動車ばかり作っているスーパーカーメーカーが支持され続けているのも、「それを買うと払った対価以上に幸せになれる人たち」がこの世にたくさんいるからです。
スポーツ用自転車のような趣味のツールの価格に、絶対的な判断基準は存在しません。確かにスポーツ用自転車は高価です。でも、その価格に値する経験ができたり、それを手に入れなければ見られない世界が見られるのであれば、それだけの価値があると言えるのでしょう。
自転車ライター。大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆し、信頼性と独自の視点が多くの自転車ファンからの支持を集める。「今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた」という自称、自転車大好き人間。
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