2024.11.11
ジョン・ボイド・ダンロップさんによって空気入りのゴム製タイヤが発明されて以来、車輪を使う乗り物は、速さ、グリップ、快適性、軽量性、ハンドリングなどを高次元でバランスできるようになり、高い走行性能を手に入れました。いまではF1マシンから軽快車まで空気入りのゴム製タイヤを使っているわけですが、そこには一つだけ逃れられない欠点があります。パンクです。
ゴムの袋や膜で空気を閉じ込めているという構造であるため、何かの拍子に穴が空いてしまうと空気が抜け、ぺちゃんこになって走行不能になってしまいます。
特にスポーツバイクは、瞬間最大パワーが1馬力にも満たない非力なエンジンでなんとか速く走らせている乗り物なので、タイヤには極端な「軽さ」と「低抵抗」が求められています。その結果、タイヤのゴム膜は非常に薄く、自動車に比べてパンクのリスクが高い。クルマでパンクなんてそうそうありませんが、ベテランのスポーツ用自転車乗りなら数え切れないほどパンクを経験しているはずです。
こう書いていると、「人の命を乗せて高速で走る乗り物」としては、タイヤの脆弱性が否定できない気もしますが、仕方がありません。防止策は、「できるだけパンクをさせない状態」で、「できるだけパンクをさせない走り方」を心がけるしかありません。
「できるだけパンクをさせない状態」とは、パンクしてしまうような状況に陥ったときのために、「あらかじめパンクしにくい状態にしておく」というもの。受動的パンク防止策です。具体的には、①耐パンク性の高いタイヤやチューブを使う ②小さな穴なら自動的に塞いでくれる「チューブレスタイヤ」(※)を使う ③タイヤを太くする ④空気圧管理をしっかりする─などです。
一見どれも同じに見えるロードバイクのタイヤ。実は「クリンチャー」、「チューブレス」、「チューブラー」という3種類に大別されます。それぞれの特徴とメリット・デメリットを簡単に説明しましょう。
もちろんそれらも大事なことですが、個人的には「できるだけパンクをさせない走り方」のほうが重要だと思っています。これは、そもそも「パンクしてしまうような状況にしない」というもので、能動的なパンク防止策といえます。
走行中のパンクの原因は、「リム打ちパンク」と「貫通パンク」に大別できます。リム打ちパンクとは、段差や凹凸にガツンと勢いよく乗り上げ、タイヤが潰れて地面とリムとの間に挟まり、チューブに穴が開いてしまうというもの。これは乗り方で防ぐことができます。タイヤが段差や凹凸に当たる瞬間、自転車に預けていた体重を抜いて(抜重=「ばつじゅう」といいます)、タイヤにかかる衝撃を緩和してあげるのです。
前輪が段差を通る瞬間は、ハンドルを引き付けるようなイメージで。後輪の場合はサドルから腰を浮かすような感じで。少しの練習が必要になりますが、こうすればタイヤをほぼ潰さずに段差を通過できるようになり、リム打ちパンクは確実に防止できます。
貫通パンクは「突き刺しパンク」ともいいますが、道路に落ちている釘やガラス片、小石、ゴミなどを踏んでタイヤ(チューブ)に穴を空けてしまうことによるパンクのことをいいます。
正直言ってこれは運によるところも大きいですが、ゴミが溜まっている道路の端を走らない、割れたガラスが散乱しているところは避ける、パンクの原因となり得る小石などをできるだけ避ける、などの走り方の工夫によってある程度は防ぐことができます。
他にも、リムテープ・チューブ・バルブ・タイヤの劣化によってパンクが起きることもあるため、「脚周りを何年間も交換してない」という人は、プロショップで見てもらいましょう。
最後に、先ほど「運によるところも大きい」と書きましたが、長いこと自転車に乗っていると、同じような機材で同じような走り方をしているはずなのに、何年間もパンクと無縁のこともあれば、一カ月に何度もパンクすることもあります。
なぜかパンクが続くとき、我々自転車乗りは「パンクの神様が降臨」なんて言ったりしますが、パンクが頻発するのには何か原因があるのだと思います。
例えばメンタルが不調でボーっとしてしまい、気付かないうちに路面への配慮がおろそかになっていたり、丁寧な抜重ができなくなっている可能性も。
パンクが続くときは、己のメンタルヘルスを見直しては?という、ある意味“自転車の神様”からのサインなのかもしれません。
自転車ライター。大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆し、信頼性と独自の視点が多くの自転車ファンからの支持を集める。「今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた」という自称、自転車大好き人間。
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