2023.9.1
街中でよく見かける軽快車(いわゆる“ママチャリ”)。レースやロングライドなどのために作られた、いかにも速そうなロードバイク。なにがどう違うのか。分かっているようで、改めて聞かれるとスパッと答えを出しづらい質問です。だってペダルとクランクでチェーンを引っ張り、その力で車輪を回し、サドルに座って全身でバランスを取りながらハンドルで操舵する、という構造は全く同じなのですから。
まずはそれぞれのコンセプトを考えてみましょう。軽快車は通勤、通学、子供の送り迎えなどに使う、日々の移動手段です。荷物を積むことも多いのでカゴやキャリアが付き、駅前の駐輪場やコンビニの前に停められるように鍵とスタンドも装備。一回の移動距離は数kmかせいぜい10km前後で、想定速度域も時速十数km~20kmほど。足が地面にすぐ着くようサドルは低めに、楽ちんな姿勢で乗れるようハンドルは高めに設定されます。
スーツや制服を汚してはいけないので、泥除けやチェーンガードなども付けられています。タイヤも頑丈で耐久性が高いもの。屋外で保管されることも多いので、雨風にさらされても大丈夫なように設計されます。また、あくまで日用品なので売価も安く設定しなければなりません。だから高価な素材も凝った構造も採用できません。自ずと車重は重くなってしまいますが、人々の日常を支える移動手段です。
一方のロードバイク。かつては「ロードレーサー」と呼ばれていたことからも分かるように、本来はレースのための自転車です。プロのレースでは、下りになると時速100kmを超えることも珍しくなく、一日で300km以上走ることもあります。想定している速度や距離が軽快車とは桁違いなのです。
レースのルールは基本的に「一番にゴールに飛び込んだ人が勝ち」ですから、なによりもスピードが重視されます。1馬力にも満たない人間の力を余すところなく推進力に変えるために、フレームやホイールはできるだけ硬くたわまないものになり、空気抵抗の小さい形状になっています。タイヤは「転がり抵抗」(転がるときに、進行方向と逆向きに生じる抵抗力)を抑えるために細く、また一度スタートしたらゴールするまで足は付かないので、サドルは最も人間が力を出しやすい高さに設定されます。
ハンドルもそれに合わせて高くすると上体が風を受けてしまい空気抵抗が大きくなるので、ハンドルはサドルより低い位置です。どんな状況でも対応できるように、いろんな所が握れるドロップハンドルが付き、速く走るために必要ないもの、カゴ、スタンド、泥除け、チェーンガードなどは付きません。
また、レースコースの中には上りが多く含まれるので、できるだけ軽量化する必要もあります。そのため、アルミやチタン、カーボンなどの高価で高性能な素材がふんだんに使われます。軽快車の重量が20kg前後なのに比べ、ロードバイクは概ね8kg前後。軽いものになると6kgなんて軽量バイクも。軽快車の3分の1の重量です。
また、軽快車のギヤ(変速機)は1~3段のことが多いですが、ロードバイクは人間の脚の回転を効率よく推進力に変換するため前後のギヤを組み合わせて20段前後と多くなっており、さらにライダーの体にぴったりとフィットさせるためにフレームサイズもたくさん用意されています。
最近は、長距離を快適に走るための「エンデュランスロード」や、舗装路も未舗装路も楽しめる「グラベルロード」も増えていますが、基本的に「効率よく速く走るためのもの」というコンセプトはレース用のロードバイクと変わりません。
と、同じ自転車ながら、なにからなにまで違う軽快車とロードバイク。クルマで考えれば、F1マシンと軽自動車くらいの違いといえば分かりやすいでしょうか。F1マシンと違うのは、ロードバイクは市販されており、公道を走れるということ。
F1マシンがプロメカニック達の手厚い整備調整を必要とするように、ロードバイクも乗りっぱなしというわけにはいかず、ショップでの定期的な点検や消耗品の交換が必須ですが、それに見合う特別な体験を提供してくれます。
自転車ライター。大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆し、信頼性と独自の視点が多くの自転車ファンからの支持を集める。「今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた」という自称、自転車大好き人間。
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