2023.9.11
「タイヤ細いねぇ。」
「高いんでしょ?」
「何キロくらい出るの?」
「何キロくらい走れるの?」
これらに次ぐロード乗りがよく言われること第5位が「サドル細いねぇ」です。
確かに軽快車(ママチャリ)のサドルが大きくて幅広くてふっくらしていて、まるでクッションみたいなのに対して、ロードバイクのサドルは薄くて細くて硬い。僕がいつも使ってるサドルなんて、まるで未来の飛行機みたいな形をしています。いかにもお尻が痛くなりそうです。
もちろんこれには理由があります。まず、役割が違います。
軽快車ではサドルにどっかり座ります。上体が直立しているので、体重のほとんどをサドルが受けます。だからソファーのように大きくて柔らかくなっています。
一方、ロードバイクでは前傾姿勢で、ハンドルにも体重が分散するうえに、スピードを出す乗り物なので、ペダルにかかる力も軽快車に比べると段違いに大きく、ペダルに力をかければかけるほど、その反動でサドルにかかる荷重は減ります。レース中の選手はサドルにかかっている荷重がわずか数キロだと聞いたことがあります。
軽快車のサドルは椅子ですが、ロードバイクのサドルは椅子のようにどっかりと座るためのものではありません。お尻を保持するためのグリップ/サポーターなのです。
役割が違えば、求められる機能が違います。それが形になって表れています。サドルが細いのは、人間の限りあるパワーをできるだけ効率よく使うためです。軽快車に比べるとロードバイクはペダルの回転数が高いため、サドルが幅広いと、内腿と擦れて抵抗になってしまいます。ペダリングを邪魔しないように、あんなに細くなってるわけですね。
サドルが硬いのは、人間の脚力を最大限に発揮させるため。サドルがフカフカだと、腰が安定せず、パワフルなペダリングができません。砂浜で短距離走やってもタイムが出ないのと同じです。速く走るためには、パワフルなペダリングの土台であるサドルはある程度硬くしておく必要があるのです。
また、軽さも求められます。ただでさえグラム単位で軽量化するロードバイクですが、サドルはそんなロードバイクの一番上に付いてます。ということは、コーナリングやダンシングでバイクを倒したり振ったりしたときに、軽量化がてきめんに効いてくるわけです。
こうした理由で、ロードバイクのサドルは細くて硬くて軽くなっています。
デメリットは、まず価格。軽くするためにカーボンやチタンといった高価な素材を使うため、サドル1つで数万円するものもあるくらいです。
そしてお尻の痛み。細くて硬いうえに、ロードバイクに乗り始めたばかりの頃は前傾姿勢がとれず、脚力も小さいので、どうしてもサドルに体重が乗ってしまいます。硬くて細いものに座っているわけで、お尻が痛くなって当然です。
解決策は、「時間(経験)」と「出会い」の2つです。
ロードバイク歴が長くなるにつれて、体重が減り、筋力が付き、前傾姿勢になり、フォームが最適化されていきます。ペダリングパワーもどんどん大きくなります。するとサドルにかかる荷重がどんどん小さくなり、痛みが出にくくなります。ある程度は時間と経験が解決してくれます。
「出会い」とは、サドルとの出会いのことです。スポーツバイク用のサドルは多種多様です。穴が空いたもの、溝があるもの、幅が広いもの、狭いもの、上面がフラットなもの、湾曲したもの…自分のお尻に合ったサドルと出会えるかどうかで、痛みの出方は変わります。ロードバイク歴が比較的長い僕だって、合わないサドルで走ると数分でお尻が痛くなります。
こればかりは実際に試してみるしかありません。最近ではレンタル用のサドルを用意しているショップも多くなりました。そういうサービスを活用して、一刻も早く運命のサドルと出会ってください。
自転車ライター。大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆し、信頼性と独自の視点が多くの自転車ファンからの支持を集める。「今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた」という自称、自転車大好き人間。
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