2023.11.1
軽快車やクロスバイクから本格的なロードバイクに乗り換えた人は、たいてい「速っ!」と驚くことになります。ほんの少しこいだだけで、スーッとスピードが上がっていく。シフトアップをして、さらにペダルを力強く回せば、風景が後ろにすっ飛んでいく。ペダルに加えた力が、無駄になることなく効率よくスピードに変換されていくその様は、高性能スポーツバイクならではの快感です。
では最近のロードバイクは時速何kmまで出せるのか。クルマなら、エンジンの最高出力とギヤ比と前面投影面積と空気抵抗係数から最高速度が導き出せます。しかし、自転車にはスペック上の「最高速度」はありません。なぜならエンジンが人間だからです。プロ選手とスポーツバイクに乗り始めたばかりのビギナーが同じスピードを出せるわけはありません。パワーが全然違います。フォームによって空気抵抗も大きく変わってしまいます。
参考までに、プロの世界のスピードを覗いてみましょう。ロードレースのゴールスプリントのときは、選手たちは時速70kmに達すると言われています。また、重力を味方にできる下りでは、時速100kmを上回ることもあります。
プロ選手の話をされても参考にならない? では、一般のサイクリスト代表として個人的な話をしましょう。
私はプロでもなんでもない一般的なサイクリストです。ロードバイクにはそれなりに長く乗っていますが、特別に速いというわけではありません。それでも平地で時速40kmを出すのは比較的簡単です。ちょっと頑張れば時速50kmくらい出ます。ちなみにその昔、レースの下りで出した最高速度は時速90kmでした。普通のおじさんでもそのくらいのスピードは出せるのです。
クルマやオートバイは数十~数百馬力のエンジンを積んでいます。しかし人間は、もちろん人によりますが、頑張って瞬間的に1馬力を出せるかどうかといったところ。プロ選手でも長時間1馬力を出し続けることは不可能で、瞬間的に出せる最高出力は2馬力くらいでしょう。では、最高出力1~2馬力そこそこのロードバイクが、なぜそんなに速く走れるんでしょう? だってよく考えると不思議です。2本の脚で走るのも、自転車に乗って走るのも、パワーソースが人間という点では同じです。
キーワードは「効率」です。歩行という動きは、実は非常に無駄が多いのです。一歩進むごとに体全体が上下するし、脚が地面に付くたびにエネルギーをロスしています。一方、自転車は非常に効率の良い乗り物です。ある文献によると、加えたエネルギーの実に98%以上が推進力に変換されるそうです。
さらに、最近のロードバイクは、車体やウエアの空気抵抗の削減、タイヤの転がり抵抗の削減、ギヤの多段化、高性能ベアリングやフレームの設計技術の向上による駆動効率アップなどによって、その「効率」にさらに磨きをかけています。移動するものとして、ある種異様なまでの効率を誇る乗り物、それがロードバイクなのです。
一つ付け加えておきますと、公道での自転車の制限速度は、クルマと同じ。例えば、制限速度が時速40kmの道は、自転車も40km以上出してはいけません。いくら効率がよくスピードを出せるといっても、スピード違反にはお気を付けて。
自転車ライター。大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆し、信頼性と独自の視点が多くの自転車ファンからの支持を集める。「今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた」という自称、自転車大好き人間。
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