2019.8.27
自転車ロードレースを走る選手たちは基本的にエースとアシストの役割に分かれます。そして、エースとアシストの中でも選手によって役割は様々なのです。より詳細な選手の役割を理解する上で重要な概念が「脚質」です。「脚質」とは、選手の得意分野の違いを表す言葉です。全2回にわたって、「脚質」の種類や具体的な内容についてお伝えします。
瞬間的に、爆発的なスピードを出すことができる脚質のことを「スプリンター」といいます。スプリンターが活躍する場面は、主に平坦コースです。難易度の低いコースでは、大集団のままフィニッシュ地点に向かい、最後は集団スプリントに持ち込まれやすいです。そこで、爆発力に優れたスプリンターが勝利を狙うのです。
トップスプリンターともなると、最大出力1000Wを超えるパワーを出して、スピードは時速70kmに達することも珍しくありません。しかし、それだけのパワーを保てるのはだいたい10〜15秒程度です。時速70kmで10秒走行すると約200m移動することになります。したがって、残り200m地点でスプリントを開始することがスプリンターの一つのセオリーとなります。
残り200m地点まで、勝利を狙うスプリンターは体力を温存したいところです。そのため、先頭に出て空気抵抗の影響を受けないように、チームメイトがエーススプリンターの前を引いてアシストします。この際、アシストとなる選手は複数人になることもあります。アシストが次々に先頭から離脱して、最終的にエースを好位置で発射する一連の動きを「リードアウト」、エーススプリンターとアシストの隊列を「スプリントトレイン」もしくは単に「トレイン」と呼んでいます。
一方でスプリンターは体重が重たくなりがちなので、重力の影響を受けやすい上り区間が苦手です。特にツール・ド・フランスに登場するような長い上りを含む山岳ステージは大変です。制限時間内にフィニッシュするために、スプリンター同士、またはアシスト選手を伴って完走を目指す集団を形成することが多いです。この集団を「グルペット」といいます。
上り坂を得意とする選手たちの脚質のことを「クライマー」といいます。坂道は重力との戦いであるため、体重が軽い方が有利になりやすく、スリムな体型の選手が多いです。
クライマーのなかでも、一定ペースで上ることを得意とするタイプと、ダンシングとシッティングを併用しながらスピードに変化をつけて上ることを得意とするタイプにわかれます。一昔前までは後者のタイプのクライマーが隆盛を誇っていましたが、近年はパワーメーターの登場とともに、効率よく一定ペースで上るタイプの選手が増えています。
クライマーはスプリンターと対極にある脚質といえましょう。例えるならば、スプリンターは100m走などの陸上短距離選手、クライマーはマラソン選手といったところでしょうか。そのため、クライマーは集団スプリントのように一瞬の爆発力が要求される走りが苦手です。
タイムトライアルを最も得意とする選手の脚質のことを「タイムトライアル(TT)スペシャリスト」といいます。英語圏では「タイムトライアリスト」という表記がよく見られ、国内ではかつて「クロノマン」という呼び方も多かったそうです。
トップクラスの選手ともなると、1時間にわたって時速50km以上を維持することが可能です。また、高出力を長時間にわたって維持することが得意であるため、結果的に上りが得意な選手も多いです。むしろ、近年のTTスペシャリストはクライマーに匹敵、あるいはそれ以上に上れる選手も珍しくなく、ツール・ド・フランスのようなグランツールで総合優勝する選手はTTスペシャリストに近い脚質を持つ選手が多くなっています。
また、ハイペース走行に耐えうる力を持っているため、スプリントトレインの一員としてリードアウトを任されることもあります。このように、平坦・上り問わずあらゆる場面で平均以上の走りをできるため、近年トップチームでは非常に重宝される脚質です。
次回は「パンチャー」「ルーラー」「クラシックスペシャリスト」などについて、解説していきます。
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