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需要激増のe-BIKE、一方で規制強化の動きも

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スペインの自転車事情<2>
需要激増のe-BIKE、一方で規制強化の動きも

 近年自転車自体の需要が急増しており、品不足や機材不足のニュースを聞くようになって久しい。そんな中で、自転車の中でも特に需要が激増しているのが電動アシスト自転車(以下e-BIKE)である。今回の記事ではスペインにおけるe-BIKE事情を様々なデータを交えてお伝えする。(Photo & Text by Yukari TSUSHIMA)

2021年にスペインで販売された自転車の14%はe-BIKE

 スペイン・メーカー・自転車協会(La Asociación de Marcas y Bicicletas de España 通称:AMBE)の報告書によると、2021年にスペインで販売された自転車の総数は157万1368 台であり、そのうち14.2%(223,561 台)がe-BIKEだった。2020年と比較すると、e-BIKEの販売台数は5.1%の増加となっている。またこの年のe-BIKEの平均価格が2,861ユーロであり、前年と比較して価格が8.1%上昇したことも同じ報告書で明らかになっている。なお、同報告書によると2021年に最も多く販売された自転車はマウンテンバイク(MTB)であり、全体の38.7%を占めている。次いで 子供用自転車が全体の29.3%を占め、その後にe-BIKEが位置する結果になっている。

 つまり、このAMBEの報告書から、2021年にスペインで販売されていた自転車の1割強はEバイクであること、そしてEバイクの需要が高いために価格も上昇基調にあることを読み取ることができる。

 こうしたスペインにおけるe-BIKEの販売台数の増加を支えている要因の一つとして、e-BIKE購入時に何らかの補助金を出している自治体の存在がある。例えば、マドリードでは1000ユーロ以上のe-BIKEを購入した人に600ユーロの補助金が支給され、同様の取り組みはバレンシア地方やガリシア地方でも行われている。

 また近年はスペインの各都市で、市民や観光客が利用する無料の自転車のレンタルシステムが整備されており、そうした場所でe-BIKEが積極的に利用されていることもe-BIKEの販売台数と需要の増加に一役買っているものと思われる。

 例えば、マドリード市が運営する無料バイクレンタルシステムの「BiciMAD」では、使用される自転車のうち2496台がe-BIKEである。また、バルセロナでも同様の無料バイクレンタルシステム「bicing」がある。そこでは現在使われている自転車7000台のうち2000台がe-BIKEであり、市民からの要望があればe-BIKEの台数を増やすこともバルセロナ市は検討している。

 加えて、スペイン最古の学生街であるサラマンカでは市議会の議員が「市民が無料で使えるレンタサイクルシステムに、より多くのe-BIKEを導入するように」との要望を出している。

e-BIKEのレースも増加

 このようにe-BIKEが普及すると、e-BIKEを使用したレースを開催しようと考え始める人がいるのも不思議ではない。すでに国際自転車連合(Union Ciclista Internacional:UCI)は、e-BIKEを使用したレースを開催している。

 例えば、2022年10月19日にスペイン・バルセロナでMTBのe-BIKEによる世界選手権が開催される。また、「BOSCH eMTB CHALLENGE」という、やはりMTBのe-BIKEによるシリーズ制のレースが2016年から開催されている。

 加えて、UCIは来年から「EBiKe Gran Prix Series」というe-BIKEの国際的な公式レースシリーズを開催することを発表した。1チーム6人で構成される10チームが、世界各地を転戦しながらe-BIKEでレースを行うというものである。

 一方、スペインで現在開催されているe-BIKEのレースはMTB形式のレースで山の中の未舗装区間を走るものがほとんどである。2019年に開催された「E-Bike Challenge」は、距離29㎞、獲得標高900m、最大斜度17%の「初心者コース」と、距離48㎞、獲得標高1884m、最大斜度27%の「ベテランコース」が設定されていた。

 この「E-Bike Challenge」はe-BIKEと電動式ではない通常の自転車とが一緒に走るレースだったが、e-BIKEのみのレースとして2022年3月に「Sandokan Ebike Race」というレースが開催予定だった。しかしレース直前に大雨が降り、結果的に開催されなかった経緯がある。e-BIKEは様々な電気機器を備えている分、雨や雪のような悪天候時には特に注意をすべき点が多いのかもしれない。

e-BIKEの走行を規制する動きも

 このようにe-BIKEは日常生活でもレースの世界でも一般的なものにありつつある。しかしその一方で、最近e-BIKEの規制を始めたスペインの地方自治体があるのも事実である。

 今年5月、スペインのスポーツメディア「as」をはじめとする複数のメディアが、「バレンシア地方でe-BIKEが山の中を走ることを禁止する条例を制定する可能性がある」と報道した。同時に、バレンシア地方で10人以上のMTBがグループで走る場合は、「事前の届け出」を義務付けることも同じ条例で定められる可能性があると報じられている。この措置は自然環境保護の観点から考えられたものではあるが、サイクリストからは反対の声が上がっている。

e-BIKEの需要増加はこれからも続く見通し

 ヨーロッパ全体のe-BIKE市場の規模は、2021年時点で約90億ドルと推定されており、2027年には180億ドルまで拡大するだろうという試算もある。スペインもこの流れに沿った形で、今後もe-BIKEを利用する人が増えると予想される。同時にe-BIKEのレースも増えるだろうし、e-BIKEに関する新たな規制が生まれてくる可能性もある。

 e-BIKEを日常の道具として、そしてスポーツの種目としてどのように取り扱うのか。今まさに世界各国で様々な試行錯誤がなされている最中といえるのかもしれない。