2019.12.10
本コラムでは、スポーツサイクリング歴約25年の筆者が、オンロードを中心に、自転車の「乗り方」「走り方」のポイントを、さまざまな要素に絞って解説していきたいと思います。この手のハウツーものはウェブでも雑誌でも沢山ありますが、少し違うポイントからヒントをお伝えできればと考えています。
第1回のテーマには「サドルの座り方」を選びました。乗車時のお尻の痛みは、スポーツサイクルに乗り始めて、ほとんどの人が最初に悩むポイントではないでしょうか。そもそもスポーツサイクルのサドルが、軽快車(ママチャリ)より細くて固いのです。こんなサドルに座って何時間も(場合によっては10時間以上も)自転車に乗るなんて、「正気の沙汰じゃない!」と初心者なら普通に思うことでしょう。
対策として想定できる回答は色々あります。「パッド付きのサイクルパンツ(レーパン)を使えばずっと快適にサイクリングできますよ! 」とか、「クッション性の高いサドルを使えば痛くなりませんよ!」 とか、「サドルの形があなたのお尻に合っていないので合うサドルを探しましょう!」とか…(そして果てしないサドル探しの旅に出る)。
いやちょっと待ってください。これらの回答は必ずしも間違いではありませんが、まず最初の大前提が抜けています。これを抜きにお尻の痛み対策は語れません。
それは「そもそも、サドルは座るものではない」という点です。
何を言っているんだと思われるかも知れません。お前もサドルに座っているじゃないかと。
確かにそうは見えますが、「座る」という言葉を椅子に座るようなイメージで捉えるなら、それは違います。だって考えてみてください。自転車のサドルは、一日8時間ほど座る想定のオフィスの椅子どころか、ラーメン屋のカウンターの椅子よりもはるかに貧相です。そんな物に何時間も座っていられる訳がありません。
ところが初心者のサイクリストは、サドルに“座って”しまっている場合がほとんどです。これではお尻はあっという間に痛くなってしまいます。そもそもサドルは体重をドカンと掛けて座るものではないのです。
ではサドルは何のためにあるのか? 筆者の見解としては「バイクと体を接続し、支えるためのポイント。プラス、ペダリングに効率的な腰の位置を固定するための位置決め機構」というものです。やや難しい言い回しになってしまいましたが、椅子というより、ハンドルと同じ扱いです。ハンドルを握るように、サドルをお尻で掴んで自転車を支えるのです。
サドルに座ったらダメ。「では一体、どこに体重を掛けたらいいの?」と思われるでしょう。結論はすぐに出ます。ライダーとバイクが接続しているポイントは、通常ハンドル、サドル、ペダルの3カ所です。さて、この3つのどれに体重を掛けるべきでしょうか?
答えは、そう…ペダルです!
人間は二足歩行をするための身体構造をしており、下肢の骨や筋肉は他の部位より発達しています。脚も足も、全体重を受け止めるだけのキャパシティがあるので、ペダルであればどれだけ体重を掛けても安心です。
それだけではありません。サドルに体重を掛けてもお尻が痛くなるだけですが、ペダルに体重を掛ければ、それはすなわち踏力なので、自転車がより前に進んでくれます。一石二鳥なのです。
実は自転車を速く楽に走らせるためには、自分の体重をどれだけ確実に効率良くペダルに乗せて、推進力へと変えていけるかが、一つのポイントになります。逆に言えば、体重がサドルに多く掛かっていると、それは「エネルギーを無駄に消費している状態」なのです。
自転車にちゃんと“乗れている”ライダーであれば、サドルに掛かる体重の割合は限りなく少なくなっているはずです。とはいえ、油断しているとついサドルに「座って」しまうものです。そういう時は、一瞬軽く腰を浮かせてやり、ペダルに体重を掛ける感覚を作り直し、サドルへの加重をリセットしてあげましょう。サドルとお尻の関係は、極端に言えば「ほぼ触れているだけ」が理想です。
とはいえ、実際にペダルへ体重を掛ける割合を増やすには、それに対応した乗車位置や姿勢、体幹の筋肉などが必要で、すぐにできるものではありません。それでも理想を知ってイメージしておくことは、上達への近道になるでしょう。
スポーツサイクル歴約30年の自転車乗りで元ロードレーサー。その昔はTOJやジャパンカップなどを走っていたことも。幅広いレベルに触れたクラブチームでの経験を生かし、自転車スポーツの楽しみ方やテクニックをメディアで紹介しています。ローラーより実走、ヒルクライムより平坦、山中より都市部を走るのが好きです。
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