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死角について 死角を恐れよう

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死角について 死角を恐れよう

 道路交通において、相手を視認できていなかった、もしくは視認するのが遅れたことにより事故につながるケースは少なくありません。内閣府のウェブサイトにある平成29年の事故類型別交通事故件数のグラフを見ると、追突(35.5%)に続く事故原因の第2位が出会い頭衝突(24.5%)となっています。

平成29年の事故類型別交通事故件数。内閣府ウェブサイト(https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h30kou_haku/zenbun/genkyo/h1/h1b1s1_2.html)より引用

 出会い頭衝突は、相手が見えた時にはもうぶつかっていた、あるいはもう避けられない位置関係だった、というものです。これは互いに死角(見えない範囲)にいたまま接近してしまったことを意味しています。

 道路上には多くの死角が存在します。視界を遮る死角の発生源としては、建物や塀、駐停車中のクルマ、周囲を走っているクルマ、街路樹…などなど。クルマに限らず同行するサイクリストですら、死角の要因となる可能性はあります。道路上から死角を完全に無くすことは不可能だと言えるでしょう。

赤い部分が死角。互いに見えないまま近付くと出会い頭の事故につながる

 ですので重要なのは、死角があっても事故につなげないことです。基本は「死角からは距離を取る」という方法です。見えないまま相手との距離が接近しすぎることが問題なので、先が見えないポイントにはある程度以上は絶対に近付かないことで、出会い頭衝突を回避することができます。自転車なら具体的には1〜2メートルくらいは…道幅や周囲の交通状況にもよりますが、死角の頂点からは離れて走るようにしましょう。もし十分な距離を取れないのであれば、徐行(即時に止まれる速度)で最大限気を付けながら進みましょう。とにかく見えないところには安易に近付かない、死角を恐れる意識が大切です。

上の図と同じ状況で、死角から距離を取って進んだ場合。死角に隠れた車両に早く気付くことができ、万一死角から相手が飛び出してきても、衝突しにくい距離が取られている

死角の「向こう側」を見よう

 実際に死角の危険を避けるためには、死角の存在を知ることが不可欠です。漫然と走るのではなく、自分から見えている範囲はもちろん見ながら、どの範囲が見えていないのかも常に考えましょう。この先の道路の構造はどうなっているかを立体的に意識しながら、注意すべきポイントにいち早く気付くようにしましょう。

 何かに遮られてよく見えない範囲でも、意識して見ることで危険を察知することが、ある程度可能です。近付いた際に死角となる個所でも、まだ離れている時であれば見通せる場合があります。また、ずっとは見えない個所でも、瞬間的な隙間から見通せる場合もあります。クルマのガラス越しにクルマの向こう側が見える場合もあります。また、直接死角の向こうが見えない場合でも、壁などへの反射光や道路などに映る影、エンジン音などを通じて、クルマなどの接近タイミングをいち早く察知することが可能です。

死角の頂点と、その裏側を立体的に意識しようる

 こういったチャンスを生かして情報を早めに取ることで、警戒の度合いを適切に高めたり、出会い頭につながるタイミングを外したりすることができます。これらは意識的に見ないと察知は難しいのですが、事前に死角を感知して注意して見ていれば、ある程度以上の精度で気付くことが可能です。前段にも書きましたが、進む先の道路の構造まで立体的に意識することで、先んじて情報を集めに動くことができるようになるのです。

相手からの「見える」をコントロールしよう

 さて、ここまでは自分からの視界に関することでしたが、事故を防ぐためには「相手」となる交通者からの視界も意識することが重要です。すなわち「相手から自分は見えているか?見えにくい位置にいないか?」ということです。実際に「相手」が存在する場合だけではなく、死角の向こう側に相手がいると想定して、見えやすい位置取りをするということも有効です。

 また、相手の目には見えているはずなのに、相手から認知されていない場合(脳の死角)があるので注意しましょう。例えば道路端を走っていたら周囲へ溶け込んでしまい、自転車が見落とされてしまうといったことがあります。これは意外に見通しの良い道路で起こる場合があります。

 筆者は実際に見通しの良い直線で、道路脇に立っていた歩行者が左右をよく確認するそぶりをした上で、避けられないタイミングで目の前に駆け出してきて衝突した経験があります。筆者側からは歩行者が遠くから見えており、当然相手も見えているだろうと考えていたのですが、実際には相手からは「見えていなかった」のです。

空いている道路の隅をクルマより小さな自転車で走ると、脳の死角になってしまう危険性が高まります

 自衛手段としては、「周囲にクルマなどが走っていない場合、本来よりも少し道路の中央寄りを走る」というものです。目立つのが目的なので、邪魔なくらいの位置を走るほうが良いです。これは見落とされがちな夜間走行時でも有効でしょう。もちろん常に周囲や後方に注意し、クルマがある程度接近してきたら本来の走行位置に戻り、通り道を空けるようにしましょう。

 また逆に「相手から見えなくする」ことが役に立つ場合もあります。直前を走るクルマがウインカーを出して左折しようとしている際、そのクルマの左側に入るというのは論外ですが、並走していなくても左側にいると、相手がサイドミラーに映った自転車を警戒して曲がる前に停止することがあります。こうなってしまうとクルマとしばらくお見合いをして先に行ってもらうか、狭いクルマの左側を通って抜けるか、いずれにせよスムーズな流れではありません。この場合は、クルマの後ろに入って左のサイドミラーから消えてしまえば、クルマは無用な警戒動作をせず曲がることができてスムーズです。

文: 米山一輝(よねやま・いっき)

スポーツサイクル歴約30年の自転車乗りで元ロードレーサー。その昔はTOJやジャパンカップなどを走っていたことも。幅広いレベルに触れたクラブチームでの経験を生かし、自転車スポーツの楽しみ方やテクニックをメディアで紹介しています。ローラーより実走、ヒルクライムより平坦、山中より都市部を走るのが好きです。

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