TOP HOW TO 教えて! MTBのスゴイ人まず最初にパーツを変えるならどこがいいですか?
教えて! MTBのスゴイ人<22>

How to ride and enjoy 教えて! MTBのスゴイ人

まず最初にパーツを変えるならどこがいいですか?
教えて! MTBのスゴイ人<22>

 マウンテンバイク(MTB)のプロフェッショナルがMTBにまつわる素朴な疑問に答えていく本コーナー。今回は「まず最初にパーツを変えるならどこがいいですか?」という質問にプロライダーの井手川直樹氏が答えていきます。

今回の回答者 井手川直樹(いでがわ なおき)
 1980年4月22日生まれ。1996年に日本最高峰のクラス、エリートクラスへ特別昇格。今も破られていない最年少記録である16歳で全日本チャンピオンに。2002年から2年間は海外のチームへ移籍しワールドカップを転戦。その活躍からホンダ・レーシング(HRC)のMTBチームの設立当初からメンバーとして活動した。在籍中、2年連続でナショナルチャンピオンやアジアチャンピオンなどを獲得し、数多くの功績を残した。現在も現役にこだわり、2021年度発足の「TEAM A&F」では選手兼監督としてレース活動を続けながら、チーム運営やMTBの普及活動に努めている。

 みなさん、こんにちは。プロマウンテンバイクライダーの井手川直樹(いでがわ なおき)です。

 今回の質問はパーツについてですが、MTBといっても色々な種類がありますよね。エントリーモデルのMTBから、競技に出るための高いスペックのMTBまで、目的や価格によって取り付けられているパーツの種類も異なります。

 それぞれのバイクについて交換するパーツを細かくお伝えするとここでは書ききれなくなってしまうので、3つのパターンに絞ってお伝えすることにしましょう。

  • パーツ交換3つのパターン
  • ①ポジションを合わせるためのパーツ
  • ②シチュエーションに合わせて変えたいパーツ
  • ③井手川がオススメする変えておきたいパーツ

①ポジションを合わせるためのパーツ

 まず完成車のMTBを購入したとしましょう。どんな種類のMTBにも当てはまることですが、自分の体格に合ったサイズのMTBに乗ることが重要です。

 MTBはフレームサイズごとに適正身長があり、170cmから185cmまでなどと幅が広く設定されていますが、完成車のMTBのポジションは身長差があっても乗れるように、平均的なものとなっています。ステムの長さやシートポストを交換することで自身に合ったポジションに変更することができます。

SHIMANO PROのステムではステム長が70mm/80mm/90mm/100mmと長さも様々用意されております © SHIMANO

 下り系を楽しみたければステムは短くハンドルポジションを上げることで、斜度がある下りでも安心して乗ることができます。逆に上りを楽しみたければステムを長く低くすることで、上りで上体が起き上がらずペダリングしやすくなります。

 ステムやハンドルは目的に合わせて簡単に変えられるパーツですね。僕が10代(1990年代)の頃は限られた種類のMTBしかありませんでしたので、目的に合わせてステムやハンドルを変えて各種目を楽しんでいました。

ハンドル位置を低くする場合はライズ(ハンドルバーの高さ)が低いハンドルバーを選びましょう。上りにおすすめ © SHIMANO
ハンドル位置を高くする場合はライズが高いハンドルバーを選びましょう。下りにおすすめ © SHIMANO

②シチュエーションに合わせて変えたいパーツ

 何よりも重要なのはMTBが唯一地面と接地しているパーツです。それはタイヤですね! 個人的にタイヤは競技のなかでも勝敗を大きく左右すると思っています。それだけ大事なパーツだと考えています。

MTBタイヤはレースにおいて勝敗を大きく左右するほどの大事なパーツです

 タイヤで変わるのは、グリップ力、乗り心地(吸収性)、先進力、ブレーキングなどです。ただし、ひと口にタイヤといっても、競技によって求められる特性は変わってきます。以下、MTBタイヤについて知っておくべき事項を挙げ、選び方のポイントも記していきます。

  • ■MTBタイヤについて知っておきたいこと
  • 1.種類(トレッドパターン)=目的に合わせた専用タイヤ
  •  ダウンヒル用/クロスカントリー用/エンデューロ用/トレイルライド用などそれぞれの種目に合わせてタイヤのゴム形状が異なります。

  • 2.コンパウンド=タイヤのゴムの硬さ
  •  グリップ力が高いタイヤはコンパウンドが柔らかく接地面積が大きく抵抗が多くなります。逆にコンパウンドが硬いタイヤは、グリップ力は低下しますが、接地面積が小さく抵抗が少ないためよく進みます。

  • 3.サイズ(太さ)=タイヤの径と幅
  •  細く抵抗の少ないタイヤはクロスカントリーなどのエンデュランス系向き。太くエアーボリュームが多いタイヤはダウンヒルなどのグラビティ系に向いています。タイヤが太くなるとエアーボリュームの恩恵で衝撃吸収性が上がり、乗り心地が大きく変化します。

  • 4.サイドケーシング=タイヤ両サイドの厚みと強度
  •  グラビティ系のタイヤは耐パンク性能を高め、突起物によるタイヤカットを防止するために、強度が高く、厚くなっています。同時に重量も増加します。エンデュランス系は軽量化のためにも厚みは薄くなっています。

  • 5.ビード=ケブラーとワイヤー
  •  ビードとはタイヤの内径部分にある素材となります。ケブラーは軽量でタイヤの折りたたみが可能となりますが、ワイヤーに比べて剛性が落ちることと価格が高いという傾向があります。ワイヤーは剛性が高く価格も安くなりますが、重量が重たくなってしまいます。

  • 6.システム=チューブレスとチューブド
  •  チューブを使用するごく一般的な仕様となります。タイヤの径やサイズに合わせてチューブのサイズや厚みを変えます。タイヤの中にチューブがあるので、タイヤの剛性をチューブの厚みなどで変えることも可能ですが、重量が重たくなってしまうことがデメリットですね。

     チューブレスはチューブを使用せず、車と同じ仕組みでタイヤの中に直接空気を注入して使用します。チューブが必要ないので重量は軽く走行にもメリットとなりますが、突起物などでタイヤに穴が開くとパンクしてしまいます。また、空気を低圧にしすぎるとタイヤとリムの間から空気が漏れてしまいます。

 このように様々なポイントがありますが、どのようにタイヤを選んだらよいのでしょうか。まずはご自身が走るシチュエーションに合わせてタイヤを選択されるのが良いかと思います。エンデュランス系なのか、グラビティ系なのか、トレイル系なのか。目的に合わせて種類を選ぶ→サイズ→コンパウンド→システム→サイドケーシング→ビードの順番で決めるのがおすすめですね。タイヤは高価な物も多いので、予算に合わせて選択することも重要です。

 ちなみに、私がダウンヒルで使用する際に意識している点は、フロントタイヤは太く吸収性が高くグリップ力を重視したタイヤ、リアには先進力を重視したやや細めで転がり抵抗の少ないタイヤということですね。コースやコンディションに合わせて色々なタイヤを組み合わせて使っています。

③井手川おすすめの変えておきたいパーツ

 僕は初心者のライディングスクールを行う際には、上手く走ることよりも、まずは上手くスピードをコントロールしてしっかり止まれるようになることを一番にお伝えします。走ることよりも止まることのほうが難しいからですね。

 そんな僕がおすすめしたいパーツは、どんな自転車にも付いている「ブレーキ」です! 車はエンジンのパワーと重量で速さが決まりますが、自転車の場合は車重が軽いので、基本的にご自身の脚力(パワー)で速さが決まりますよね。ダウンヒルは何もしなければ勝手にスピードが上がっていきますが…(笑)。

 単純に脚力があればとりあえず速く走ることができるわけですが、いざ止まろうと思ったときにはブレーキの性能が重要となります。

 ブレーキはパーツなので、その性能で制動力が変わってきます。安全にスピードをコントロールしてしっかり止まるには、より性能の高いブレーキに交換することをおすすめします。自身で力をコントロールすれば良いので、ブレーキの性能が高すぎて問題になることは何ひとつありませんよね。

 取り付けられるMTBであればディスクブレーキがおすすめです! コストパフォーマンスが高い4ピストンキャリパーのSLXは、ダウンヒルなどの激しいブレーキングでも安心してスピードをコントロールできます。

SHIMANO/SLX 油圧ディスクブレーキ © SHIMANO

 以上が交換したいパーツのお話でした。皆さんも少しずつパーツなどを交換してオリジナルのカスタムを楽しんでみて下さい。最後までご覧いただき、ありがとうございました。