2022.6.6
マウンテンバイク(MTB)のプロフェッショナルがMTBにまつわる素朴な疑問に答えていく本コーナー。第30回は「MTBは体力や筋力が必要でしょうか?」という質問にプロライダーの井手川直樹氏が答えていきます。
皆さん、こんにちは。プロマウンテンバイクライダーの井手川直樹(いでがわ なおき)です。今回はマウンテンバイクを楽しむ際に、どのくらいの体力や筋力が必要かをお話します。
マウンテンバイクを楽しむにあたって、体力や筋力は、やはりあった方が良いのは確かですね。ただ、体力や筋力がないからといってMTBを楽しめないわけではありませんよ!!ご自身のレベルにあった無理しない走りを選択することで、怪我のリスクも少なく、少しずつでも必要な体力や筋力が自然とついてくると思います。
マウンテンバイクは他の自転車よりもタイヤが太く、オフロードを走る際はタイヤの細いロードバイクで舗装路を走る時と比べて、摩擦抵抗も大きくなるので体力を消耗しやすいです。マウンテンバイクに長時間乗ったりハードなコースで楽しむのであれば、体力や筋力はそれなりに必要になってきます。
逆に言うとマウンテンバイクは短い時間でも運動効率が良く、体力を消耗しやすいです。ダイエット目的で自転車を始められる方もいらっしゃると思いますが、舗装路でもよく進むロードバイクに比べてマウンテンバイクの方が摩擦抵抗が多いので短時間で体力を使い、よりカロリーを消費できて持久力の向上にも繋がると思います。
マウンテンバイクの中でも、僕が専門とするダウンヒルについてお話しましょう。
ダウンヒルはオフロードの悪路を高速で下りながら、激しい衝撃を受け止めたり吸収したりと、腕や背中の筋肉をたくさん使います。下りながらも瞬発的なペダリングも多く、ずっとベンチプレスとスクワットを同時におこなっているようなイメージです(笑)。短時間で瞬発的な動きの多いダウンヒルに比べて、クロスカントリーなどエンデュランス系では長時間パワーを出す必要があり、ダウンヒルよりも下半身のエネルギー消費が多いと感じます。
よく勘違いされやすいのが、ダウンヒル=下りだからペダルを漕がない。と思われがちですが、下りながらも漕いでいたり、コーナーで減速した後の立ち上がりで漕いでいたりと脚力も必要になってきます。どちらかといえば瞬発的な動きが多く、心肺機能も必要ですし、1日に何回も練習を繰り返すので、それに耐えられる全身の持久力が必要になっていきます。
ダウンヒルのフィールドでは、下り1本あたりだいたい5分くらい、富士見パノラマは長いコースだと10分くらいかかりますが、そういう場所に行って1日1本しか走らないということはありません。スキーのように繰り返し走るのですが、1日に例えば10本走ると、これがかなりの運動量になります。マウンテンバイクはオフロードを走行するので転ぶととても痛いので、転倒しないよう緊張感のなかで集中して走ると運動量もあり結構な疲労感だと思います。
オフロードの下りを高速で走ると、一瞬の判断力が重要になってきます。目も使いますが脳も使う。そういう意味でもまさに「全身運動」になっていると思います。
このように体力が必要とされるマウンテンバイクですが、体力が無いと始められないわけではありません。まずは今ある体力で始めて、楽しみながら少しずつ体力を付けていくこともできます。ウォーキングやランニングよりも外からの刺激が多いですから、自分でバイクをコントロールすることを楽しみながら走るうちに、自然に筋力や体力が付けられるのではないかと思います。
体力に自信がないという人は、スキルもまだあまり無いと思いますので、フィールドでいうとまず基礎を学べる安全なエリアで楽しみながら遊んで経験を重ねた方が良いと思います。最初はパンプトラック(連続したコブ)であるとか、あるいはツーリング的要素のあるような楽しめる範囲からスタートした方が良いでしょう。
自分のスキルを超えるコースを走るのはケガのリスクが高くなってしまいます。マウンテンバイクを長く楽しむためには、「スキルと体力に合ったシチュエーションでまず楽しむことが大事」だと思います。ご自身のスキルと体力を見極めて、無理のない範囲で徐々にステップアップするようにしてください。
実際にマウンテンバイクに乗る以外のトレーニングですが、ダウンヒルでは体幹がすごく必要なので、家の身近なところでやれる事とすればランニングであるとか、あとはプッシュアップやスクワットも効果的です。
体幹トレーニングの基礎であるプランク(うつ伏せで肘と前腕、つま先が着いた状態でお腹周りを引き締めて姿勢をキープしたり、片手や片足を浮かせたりする運動)もダウンヒルにはとても効果的だと思います。
このほかに、ロードワークやインドアサイクリングなどで、脚を回すスキルと持久力を鍛えます。1日でダウンヒルを5本、6本と乗るためには持久力も必要ですから、こうした地道なトレーニングもダウンヒルを速く走るために役立ちます。
ダウンヒルは緊張感やスリルがある中で自転車をコントロールします。これは非日常的な体験ですし、それがまた自然の中で楽しめる。緊張感を持つというのはエネルギー的にもすごく消費しますし、身体だけなく脳にも良い刺激が入っていると思います。ぜひともマウンテンバイクの楽しさや爽快感などを体験していただければと思います。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
稲城から高尾まで 都内サイクリングの定番コース“尾根幹”と+αのルート
2018/10/30
2017/08/29
ヒルクライムで好成績を出すのに、どんなトレーニングをしたらいいですか?
2018/02/23