2022.7.21
マウンテンバイク(MTB)のプロフェッショナルがMTBにまつわる素朴な疑問に答えていく本コーナー。第32回は「MTBのカタログを見ていると、ホイールサイズが前後で違うものがあります。これはなぜ? メリットは?」という質問にプロライダーの井手川直樹氏が答えていきます。
皆さん、こんにちは。プロマウンテンバイクライダーの井手川直樹(いでがわ なおき)です。今回はマウンテンバイクを楽しむ際に、どのくらいの体力や筋力が必要かをお話します。
ホイールサイズが前後で異なるマウンテンバイク(マレットと呼ばれます)ですが、ここ数年でトレンドになってきたものです。これがどういったものであるかは、マウンテンバイクのホイールサイズの歴史を追ってみるとわかりやすいでしょう。
マウンテンバイクは1970年代にアメリカで生まれ、1980年代に世界中に広がりました。このときから長きに渡り大人用のホイールサイズ(径)は26インチが標準となっていました。しかし、2000年代に入ってから、29インチという大きなホイールが出てきて、クロスカントリーのレースで主流となっていきました。大きな車輪の方が、凹凸や衝撃のあるところを楽に乗り越えて走れることや、スピードが乗ってからの安定感が高いことがメリットでした。
しかしホイールやタイヤなどの製品技術が追いついておらず、トラブルがおこったり、選択幅の少ない状況で29インチは定着しませんでした。そんな中で26インチと29インチの良いとこどりをした27.5インチというホイールサイズが登場しました。
ダウンヒルやクロスカントリー競技でも数年27.5インチで定着していましたが、技術の進化もあり、やはり29インチの方がメリットが高い!と言うことで再度29インチが使われるようになって来たのが2018年くらいのお話です。
同時期にダウンヒルなどのグラビティ系(下り系)種目では、軽快性を求めて27.5インチを好んで使う選手も多くいました。そしてその中で近年、前後でホイールサイズの異なる通称「マレット」が登場してきました。
背景にはUCI(国際自転車競技連合)のルール変更があります。過去にはUCIルールでは前後同じサイズのホイールを使うことが定められていたのですが、私の記憶が確かであれば、2019年シーズンの前にルール改正があり、前後で異なるサイズのホイールも使えることになりました。これによりフロント29、リア27.5インチのマレットバイクが本格的にレースに登場し、今ではダウンヒルにおいては珍しくないものになっています。特に下系のバイクに設定が多くなっていますが、電動アシストのe-BIKEでも最近よく見られます。
マレットバイクの特徴としては、障害物を乗り越えやすい29インチをフロントに、軽くて小回りが利き、斜度のある路面では重心位置を低く保ちやすい27.5インチをリアに配することで、それぞれの「良いとこ取り」ができることです。
ここで、29インチの長所と短所をおさらいしてみましょう。
上記にある29インチの短所が出やすいリア側のホイールを27.5インチに、長所を感じやすいフロントのホイールを29インチにすることで、下りをより速く快適に走ろうというのが、マレットバイクのポイントになります。
私自身はというと、前後29インチのホイールを使っています。マレットも試してはみましたが、バイクのジオメトリーがマレットにすると好みのセッティングにならず、ヘッド角が寝すぎる傾向にあるため、特徴を活かした性能を発揮することはできませんでした。ワールドカップのような急斜面で激しいコースであればマレットは必要かもしれませんが、日本国内では斜面が緩い場所が多いため、レースでは29インチの特性を活かした方が有利だと考えています。
とはいえ、マレットのメリットを否定するものではありません。もちろん、29インチも27.5インチも、それぞれにメリット・デメリットがあるので、体の大きさや走り方に応じて選ぶと良いと思いますし、なによりも大切なのは乗り手の好みが一番重要だと思いますので、ご自身で試してから選択されることをオススメします。
マレットはもともと下りを少しでも早く走りたいレーサー向けに生まれた規格ですが、下りをより安全に楽しみたいという人にも、ひとつの有力な選択肢になるでしょう
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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