TOP HOW TO 教えて! MTBのスゴイ人MTBのカタログを見ていると、ホイールサイズが前後で違うものがあります。これはなぜ? メリットは?
教えて! MTBのスゴイ人<32>

How to ride and enjoy 教えて! MTBのスゴイ人

MTBのカタログを見ていると、ホイールサイズが前後で違うものがあります。これはなぜ? メリットは?
教えて! MTBのスゴイ人<32>

 マウンテンバイク(MTB)のプロフェッショナルがMTBにまつわる素朴な疑問に答えていく本コーナー。第32回は「MTBのカタログを見ていると、ホイールサイズが前後で違うものがあります。これはなぜ? メリットは?」という質問にプロライダーの井手川直樹氏が答えていきます。

今回の回答者 : 井手川直樹(いでがわ なおき)
 1980年4月22日生まれ。1996年に日本最高峰のクラス、エリートクラスへ特別昇格。今も破られていない最年少記録である16歳で全日本チャンピオンに。2002年から2年間は海外のチームへ移籍しワールドカップを転戦。その活躍からホンダ・レーシング(HRC)MTBチームの設立当初からメンバーとして活動した。在籍中、2年連続でナショナルチャンピオンやアジアチャンピオンなどを獲得し、数多くの功績を残した。現在も現役にこだわり、2021年度発足の「TEAM A&F」では選手兼監督としてレース活動を続けながら、チーム運営やMTBの普及活動に努めている。

 皆さん、こんにちは。プロマウンテンバイクライダーの井手川直樹(いでがわ なおき)です。今回はマウンテンバイクを楽しむ際に、どのくらいの体力や筋力が必要かをお話します。

 ホイールサイズが前後で異なるマウンテンバイク(マレットと呼ばれます)ですが、ここ数年でトレンドになってきたものです。これがどういったものであるかは、マウンテンバイクのホイールサイズの歴史を追ってみるとわかりやすいでしょう。

前後でホイールサイズが異なるのがわかるでしょうか? 微妙な違いですが、前輪が29インチ、後輪が27.5インチサイズです

マレット登場までの経緯

 マウンテンバイクは1970年代にアメリカで生まれ、1980年代に世界中に広がりました。このときから長きに渡り大人用のホイールサイズ(径)は26インチが標準となっていました。しかし、2000年代に入ってから、29インチという大きなホイールが出てきて、クロスカントリーのレースで主流となっていきました。大きな車輪の方が、凹凸や衝撃のあるところを楽に乗り越えて走れることや、スピードが乗ってからの安定感が高いことがメリットでした。

 しかしホイールやタイヤなどの製品技術が追いついておらず、トラブルがおこったり、選択幅の少ない状況で29インチは定着しませんでした。そんな中で26インチと29インチの良いとこどりをした27.5インチというホイールサイズが登場しました。

 ダウンヒルやクロスカントリー競技でも数年27.5インチで定着していましたが、技術の進化もあり、やはり29インチの方がメリットが高い!と言うことで再度29インチが使われるようになって来たのが2018年くらいのお話です。

 同時期にダウンヒルなどのグラビティ系(下り系)種目では、軽快性を求めて27.5インチを好んで使う選手も多くいました。そしてその中で近年、前後でホイールサイズの異なる通称「マレット」が登場してきました。

マレットバイクは下り系種目におけるニーズから登場しました

 背景にはUCI(国際自転車競技連合)のルール変更があります。過去にはUCIルールでは前後同じサイズのホイールを使うことが定められていたのですが、私の記憶が確かであれば、2019年シーズンの前にルール改正があり、前後で異なるサイズのホイールも使えることになりました。これによりフロント29、リア27.5インチのマレットバイクが本格的にレースに登場し、今ではダウンヒルにおいては珍しくないものになっています。特に下系のバイクに設定が多くなっていますが、電動アシストのe-BIKEでも最近よく見られます。

マレットバイクの特徴は

 マレットバイクの特徴としては、障害物を乗り越えやすい29インチをフロントに、軽くて小回りが利き、斜度のある路面では重心位置を低く保ちやすい27.5インチをリアに配することで、それぞれの「良いとこ取り」ができることです。

 ここで、29インチの長所と短所をおさらいしてみましょう。

  • 29インチの長所
  • ・凹凸や衝撃のあるところを楽に乗り越えて走れる
  • ・スピードが乗ってからの安定感が高い
  • ・27.5インチと比べて地面への接地面積が多く、グリップ力が高い
  • ・安定感が高くスピード感を感じにくいので限界値が高くなる
  • 29インチの短所
  • ・ホイール径が大きいのでタイヤも含めて重量が重たい
  • ・乗車位置が高くなるので背が低い人は足が地面につきにくい
  • ・クイック(急)な動きがしにくいので、細かいコーナーなどは動きが遅れやすい
  • ・大きな段差を降りる時に乗車位置が高いので、リアからの突き上げを大きく感じる

 上記にある29インチの短所が出やすいリア側のホイールを27.5インチに、長所を感じやすいフロントのホイールを29インチにすることで、下りをより速く快適に走ろうというのが、マレットバイクのポイントになります。

下り系ライダーの選択肢に

 私自身はというと、前後29インチのホイールを使っています。マレットも試してはみましたが、バイクのジオメトリーがマレットにすると好みのセッティングにならず、ヘッド角が寝すぎる傾向にあるため、特徴を活かした性能を発揮することはできませんでした。ワールドカップのような急斜面で激しいコースであればマレットは必要かもしれませんが、日本国内では斜面が緩い場所が多いため、レースでは29インチの特性を活かした方が有利だと考えています。

 とはいえ、マレットのメリットを否定するものではありません。もちろん、29インチも27.5インチも、それぞれにメリット・デメリットがあるので、体の大きさや走り方に応じて選ぶと良いと思いますし、なによりも大切なのは乗り手の好みが一番重要だと思いますので、ご自身で試してから選択されることをオススメします。

 マレットはもともと下りを少しでも早く走りたいレーサー向けに生まれた規格ですが、下りをより安全に楽しみたいという人にも、ひとつの有力な選択肢になるでしょう

 最後までご覧いただき、ありがとうございました。