TOP HOW TO ロードバイク乗りがMTBライフを始めてみましたロードバイク乗りが「SDA王滝」挑戦! マウンテンバイクで“非日常”な自転車の世界へ
ロードバイク乗りがMTBライフを始めてみました<3>

How to ride and enjoy ロードバイク乗りがMTBライフを始めてみました

ロードバイク乗りが「SDA王滝」挑戦! マウンテンバイクで“非日常”な自転車の世界へ
ロードバイク乗りがMTBライフを始めてみました<3>

 ヒルクライムやキャンプツーリング等、自然の中を自転車で走るのはとても楽しいものです。ただ、路面に目を向けるとそこはいつも舗装路。そう、細いタイヤを履いたロードバイクである限り、山の舗装路は走れても真の“山道”を走ることはできません。「もっと自由に自然の中を走ってみたい!」─そんな思いが募り、ロードバイク一筋だったサイクリストがついにマウンテンバイク(MTB)の購入を決意。とはいえ、ロードバイクとはパーツも乗り方もまったく異なるMTB。プロショップの方にロードバイク目線で素朴な疑問をぶつけつつ、機材選びのポイントを教えてもらいました。

この記事の内容

舗装路からグラベル、そしてトレイルへ

 最近ロード乗りの間でも人気のグラベル(未舗装路)ライド。ロードバイクの機材も太いタイヤを履けるグラベル仕様のモデルがトレンドになるなど、ロードバイクでも走れる道が拡大しています。ただ、やはりそこにも限界があり、さらに一歩踏み込んだ森の中のトレイルを走るとなると、タイヤの種類はもちろん、ギアや耐衝撃性も“山仕様”、つまりMTBの出番となります。

 舗装路、グラベルと来たら、次なる好奇心は未体験のトレイルへ。ロードバイクで鍛えた脚がトレイルで果たしてどこまで通用するのか? 国内で最も過酷なMTBの長距離レースといわれる「セルフディスカバリーアドベンチャー in 王滝」(SDA王滝)への出場を決意し、MTBを購入することにしました。

女性にこそおすすめしたいMTB

 ロードバイクに関してはそれなりの知識がありますが、MTBに関しては正しいポジションやサイズ選びからわからない状態だったので、店長の高橋ももさんに女性としての疑問や相談を聞いてもらいつつ、機材選びについてのアドバイスをいただきました。

ジャイアントストア聖蹟桜ヶ丘店長の高橋ももさん。自身もクロスバイクやロードバイクをはじめ、「MTBで森の中をのんびり走るのが大好き」というオールラウンダーなサイクリスト

─自然が好きでロードバイクでよく山を走っているのですが、もっと深く山道を走りたくなりまして、思い切ってMTBを購入することにしました。

高橋 いいですね!私も自然の中をMTBで走るのが好きで、時々トレイルライドに行っているのですが、MTBこそ女性におすすめしたいと常々に思っています。ロードも楽しいですが、距離や速さを追求しがちで、どことなくストイックになりがちですよね。一方で自然の中を走るMTBは、景色の中に発見があったりスリルがあったり…そんな非日常的な楽しさが、好奇心が強い女性にぴったりだと思います。

 多様な地形を走るので短時間で全身運動にもなりますし、エクササイズにも最適ですよ。

MTBの種類と特徴

─それは楽しみです! 早速ですが、MTBの種類について教えてください。

高橋 MTBは「ハードテイル」と「フルサスペンション」(フルサス)、「リジット」の3つに分けられます。これらの違いはサスペンション(地面からの衝撃を吸収するクッションの役割を持つパーツ)の違いで、ハードテイルはサスペンションが前のみ、フルサスペンションは文字通り前後両方、そしてサスペンションを搭載していないのがリジットです。

 ハードテイルはペダルを漕ぐ力が分散しづらいので、街乗りから軽めのオフロードが楽しめます。一方のフルサスはハードテイルよりも衝撃吸収力が高く、悪路でも高い走破性と安定性を発揮するので、よりハードなトレイルライドやレースなどの競技に向いています。

─トレイルライドに興味があります。競技志向ではありませんが、上達するためには何か目標があった方が良いかと思い、ロードバイクでロングライドをしてきた経験を生かしてSDA王滝に出場したいと考えています。

高橋 ならば、フルサスモデルがおすすめです。初めてMTBを購入される方の中には街乗りの用途も考えてハードテイルを選ばれる方が少なくないですが、すでにロードバイクをお持ちであれば、街乗りのことを考えず、よりトレイルライドに特化した方が楽しめるフィールドの幅が広がります。

 トラベル量(サスペンションの長さ)が120㎜と衝撃吸収能力が大きなサスペンションと、ボリューム感のあるタイヤを備えたいわゆる“トレイル系バイク”と呼ばれるモデルは、登坂と下り性能のバランスが良く、悪路での安定性とコントロール性に優れているので、初めてオフロードを走るビギナーライダーでも扱いやすいのが特徴です。もちろん初心者向けということではなく、経験を積んでライディングスキルが上がっても、スキルに応じたトレイルライドを楽しむことができます。

フロントサスペンション
リアサスペンション

ホイールとタイヤの種類と選び方

─ホイールやタイヤのサイズに種類はあるのですか?

高橋 ホイールサイズは、いまほとんどのMTBが29インチか27.5インチを採用しています。安定性と加速性が高く、どんなライドもこなせるという点では、一般的に29インチをおすすめしています。一方、27.5インチはキビキビとした素早い操作性が特徴で、小柄なライダーにも扱いやすいので、ビギナーの方々や女性の場合は27.5インチという選択肢が良いかと思います。

29インチと27.5インチが主流。自身の乗り方や体型に合ったホイールサイズを選ぼう

ロードバイク脳は通用しない!山ならではのギア

─ロードバイクとは全く違うMTBですが、スプロケットのサイズも段違いの大きさですね。ロードバイク乗りとしては夢のような(笑)軽いギア比というか、むしろ進むのか心配になるくらい…。

30Tのフロントギアに対し、11x48の大きなスプロケット。MTBは加速よりもコントロール性が重要

高橋 ロードバイクの感覚で見ると、たしかにそうですね(笑)。ただ、ロードバイクのように平地で加速する乗り方ではないので、スピードを出すようなギア比はMTBには不要です。ダウンヒルのような下りを専門とするバイクの場合、ここまで大きなギアは不要ですが、トレイルライドの場合は斜度強めのアップダウンでいかにバイクをコントロールできるかがポイントになります。このバイクの最も軽いギア比は1:0.6と、平地では進みにくい、ロードバでは考えられないようなギア比ですが、これが山では効くんです。

ペダル選びのポイント「足を滑らせない」

─ロードバイクでは足を固定するビンディングペダルを使用していますが、MTBでもビンディングペダルの方が良いのでしょうか?

高橋 ロードバイクと同じく、ビンディングペダルを使用した方がペダルから足が滑り落ちるのを防ぐことができ、安定したペダリングが可能になります。

 ただ、使用するのはある程度トレイルでの走行に慣れてからで良いと思いますし、自然の中をのんびりライドするというのであればフラットペダルで十分です。ただ、泥など付着してペダルの上で足が滑ると安定したペダルができなくなることもあります。固定とまではいかずとも、靴の接地面に小さなピンが食い込む形で滑りを防止するペダルもありますので、そういうものも検討してみてください。

安定したライドにはペダル上で足を滑らせないことが重要

これだけはやっておきたい、セルフメンテナンス

─やるべきセルフメンテナンスは?

高橋 ロードバイクと同じく、タイヤの空気圧は確認すると良いでしょう。MTBの空気圧はロードバイクやクロスバイクよりもグッと低い空気圧となります。基準の空気圧はタイヤサイドに書かれていますが、体重や走り方に合わせて調節しましょう。

 エアサスペンションが搭載されたMTBに乗る場合、「サグ」の調整も自身で行えるようになると良いでしょう。サグとは、サスペンションに荷重がかかったときにサスペンションが沈み込む量をいい、乗る人の体重に合わせて適切にサスペンションの沈み込む量を調整することを「サグ取り」または「サグ出し」といいます。サスペンションが適度に沈み込み、路面の凸凹をいなしてくれることで、段差を難なくクリアできたり、安定して走ることができます。所有者がまたがってシートに体重を預けた静止状態で、サスペンション総ストローク量のフロントは15%、リアは20%沈み込む状態が適正とされています

サグ取りは専用のポンプを使って行います

 逆にサグ取りがきちんとできていないと、「底突き」(サスペンションが限界まで縮んだ状態)が起きたとき、サスペンションが吸収できなくなったエネルギーがライダー自身に跳ね返り、落車の原因にもつながります。安心・安全に走るためにもサグ取りは不可欠ですので、エアサス搭載のMTBを購入する場合は、店舗スタッフからサグ取りの方法についてきちんと教えてもらうようにしてください。

MTBはどこで乗れる?

─早速MTBで山を走りたくなってきました!おすすめのフィールドを教えてください。

高橋 MTBが走れるトレイルは少しわかりにくく、道があっても実は自転車NGの道だったり、私有地だったりしてトラブルになる可能性もありますので、MTBのチームに所属して、チームメイトに走行可能なトレイルを教えてもらうと良いでしょう。

 また、最近は「パーク」と呼ばれるMTBのためのフィールドも全国的に増加しており、ビギナーでも気軽に、かつ安全にオフロードを楽しめる環境が整ってきています。東京都稲城市の「MTB Smile Bike Park」や神奈川県の「トレイルアドベンチャー・よこはま」、同じく神奈川県の小田原市にある「フォレストバイク」等、都心近郊にもアクセス良好なフィールドがありますので、それらを利用してみるのもおすすめです。

ビギナーも安全にスキルアップできるパークが増加中

─ありがとうございます。パークを検索して行ってみます! 今日はひとまず試運転ということで、自宅まで自走してみようと思います。

高橋 ここから自宅までの距離は?

─35kmです。

高橋 ロードバイクと違ってスピードは出ませんし、路面の抵抗も多めでロードバイクより大変かもしれませんが、太いタイヤは荒れた路肩もちょっと段差も安全に走れると思います。いつもと違う乗り心地を楽しんでみてくださいね。

試運転で自宅まで片道35kmの帰途を自走! 次回はいよいよトレイルへ
文: 後藤恭子(ごとう・きょうこ)

アウトドアメーカーの広報担当を経て、2015年に産経デジタルに入社。5年間にわたって自転車専門webメディア『Cyclist』編集部の記者として活動。主に自転車旅やスポーツ・アクティビティとして自転車の魅力を発信する取材・企画提案に従事。私生活でもロードバイクを趣味とし、社会における自転車活用の推進拡大をライフワークとしている。

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