2024.9.20
ロードバイク乗りの走力はマウンテンバイク(MTB)にも生かせるのか?―この”垣根”に挑むべく、MTBの難関レース「セルフディスカバリーアドベンチャーin王滝」(SDA王滝)への挑戦を掲げた本連載。今回はそんな素朴な疑問に対して「生かせる」どころか「勝てる」ことを証明した坂バカ俳優・猪野学さんを直撃! 同レースで初の表彰台を獲得した経験をもとに、レースのポイントの他、ロードバイク視点で見たMTBとの共通点や違いについて語っていただきました。
―そもそも猪野さんがSDA王滝に出場したきっかけは何だったのでしょうか?
猪野 実は自分から出走を志願したわけではなく、出演する自転車情報番組『チャリダー★』の企画で「マウンテンバイク同好会」というのが発足されまして、そこで「どうやら猪野はMTBが向いているらしい…」という話になり、お呼びがかかりました。
―SDA王滝初挑戦で、いきなりロングコース(100km)(※)に挑戦されるとはすごいです。ロードでは慣れた距離かもしれませんが、MTBで100kmを走ることに不安はありませんでしたか?
※エキスパート(約109km) ロング(約100km)ミドル(約51km)ショート(約22km)がある
猪野 距離的に不安はありませんでしたが、「振動で腰をやられる!」と聞いていたので、 持病の腰痛が再発する不安はありました。しかし、岩を越える度に腰を上げていたら大丈夫でした。疲れましたけどね…(笑)。
―普段はロードバイク一筋のイメージですが、MTBはもともと乗れたのでしょうか。それともSDA王滝に向けてMTBの特訓をされたのか、練習をしたとすればどのような練習を行ったのでしょうか?
猪野 そもそもMTBを持っていないので、それまでも番組の企画でしか乗っていませんでした。王滝の対策としては、群馬の山奥で「特訓ロケ」を行いました。激坂のガレ場でトラクションコントロール(※)を練習したり、下りでの荷重と目線の置き方も学びました。スポット的な練習でしたが、その効果はとても大きかったです。
※後輪がスリップしないよう路面の接地面で発生する駆動力をコントロールすること
―SDA王滝のコースはどのような印象でしたか?
猪野 思っていたよりは走りやすかった印象です。石や岩などが積み重なった“ガレ場”が多かったですが、勾配はそれほどきつくない印象で、特訓ロケで連れていかれた群馬のガレ場の方がキツく、難しかった気がします。
―見事、年代別2位に輝いた猪野さんですが、レースでは「勝ち」にいったのでしょうか?
猪野 勝ちに行くつもりはなくて、個人的には「10位内に入れれば上出来」だと思っていました。ただ、群馬の特訓ロケでタイムアタックをしたところ、 ドクター竹谷さん(元MTBプロライダー・竹谷賢二さん)が想定していたタイムより5分ほど速かったので、 竹谷さんからは「表彰台行けます!」と背中を押していただきました。
―勝因は何だったと思いますか?
猪野 その年は8月末開催の「乗鞍ヒルクライム」に向けてかなりトレーニングを強化し、当時はいわば“持久力の塊”のようになっていました。ただ、タイミング的に乗鞍ではそれが発揮されず、成績は振るわなかったのですが…(苦笑)、思いがけず9月の王滝に当たり、レース後半に無尽蔵にパワーを出すことができました。今思うと、それが勝因だったかと思います。
―ロードバイク乗りがSDA王滝を完走する、もしくは勝ちに行くためのコツは?
猪野 勝ちに行くなら、①止まらない ②休まない ③補給は走りながら摂る(これがロードバイクとは違い、グラベルなので難しい)。とにかく漕ぎ続けることだと思います。
あと下りのスキルで結構差がつくと思います。MTBの下りはスキーの動きと酷似していて、私はスキーの元準指導員ということもあり、下りで順位を稼ぐことができたのも良かったと思います。
―ロードバイクで走る100kmと、MTBで走る100kmの違いはありますか?
猪野 MTBはとにかく全身を使います。ペダリングもトルクをかけると滑って進まないので、常にトラクションコントロールが必須です。なので、ロードバイクで同じ距離を走るよりも体力と集中力を使った印象です。脚力・持久力に加えて、テクニックが合わさるという意味では、MTBレースは自転車界の総合格闘技といえるかもしれません。
―「坂バカ」で知られる猪野さんですが、ロードで走る山の魅力と、MTBで走る山の魅力の違いをどう感じていますか?
猪野 「上り方」が違うと思います。ロードバイクで上る山は、重たいギアを踏んで坂をねじ伏せていく感覚が楽しいのですが、一方でMTBはペダルをクルクル回して、荒れた地面を捉えながら進んで行く感覚。それはそれで楽しくて、いずれにせよ自分は「坂バカ」なんだと感じます(笑)。あとロードバイクでは勝てない人に、MTBでは勝てるのも個人的には魅力です(笑)。
―ロードバイク乗りにとってMTB、そしてSDA王滝は、どんなところがおすすめですか?
猪野 途中まではワンウェイで、普段は走ることの出来ない国有林の大自然を満喫出来ました。コース全体では平坦区間もありますし、ロードバイク乗りでも比較的挑戦しやすいコースだと思います。ただ後半は激坂天国ですけど…(笑) 。とにかくゴールまで飽きることのない変化に富んだコースが続くので、楽しめると思います。
普段からロングライドやヒルクライムを楽しんでいる人なら、少しバイクコントロールを練習すれば、脚力は十分通用すると思います。距離もショートからロング(※エキスパートはロング完走者のみエントリー可)までありますし、ロングとミドルはグラベルバイクでも出走可能です。
いつもと違う自転車の世界を体験してみたいと思っている方は、ぜひ一度チャレンジされてみると良いと思います。私みたいに、思いもよらなかった自分のポテンシャルに気付く機会になるかもしれません(笑)。
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