2019.12.19
自転車販売店・ディーラー向けの試乗イベント「SBAA オフロードバイク ディーラーサミット」が11月12日、13日に静岡県の「御殿場MTB&RUNパークFUTAGO」で開催された。ここでは、12日にe-BIKEジャーナリストの難波賢二氏が行ったセミナー「日本で成功するためのe-BIKEビジネス」の模様をリポートする。(Text& Photo by Masahiro OSAWA )
難波氏はまず、e-BIKEが普及している欧州の現状について述べた。e-BIKE普及国のドイツでは2018年に約100万台のe-BIKEを出荷。ドイツ人の約80人に1人がe-BIKEを購入したことになる。
この勢いは今も止まっていない。2020年見通しでも、出荷額ベースで75%がe-BIKEとなり、一般的なスポーツ自転車の3倍を超える見込みだという。ロードバイク・マウンテンバイクの売上が100億円だとしたら、e-BIKEの売上は300億円となる計算だ。
日本では逆だ。日本では人力スポーツ自転車の売上額はe-BIKEよりも20倍も多い。にわかには信じがたい現状がドイツにあるが、ドイツでe-BIKEがトレンド化したのは、ごく最近のことにすぎないという。e-BIKEが欧州に出始めたのが2010年頃、ボッシュがドライブユニットで市場参入し、それを搭載した完成車を多数のメーカーが販売。当初は見向きもされなかったが、ここ5年ほどで爆発的に普及しているとのことだ。
難波氏が独自に調べたデータも面白い。e-BIKEの販売額が50%を超えている欧州諸国は、ドイツ、スイス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク。その周辺のフランス、デンマーク、イタリア、スペイン、オーストリアでも30%を超える。ドイツを中心として、トレンドが外に向かって広がっている。2018年の欧州におけるe-BIKEの出荷台数は213万台となったとしている。
そして、e-BIKEのみならず既存の自転車に対する人々のイメージも変わったようだ。ドイツでは、2014年頃までのe-BIKEユーザーの平均年齢は65歳以上。体力に不安を抱える高齢者の乗り物という位置づけだった。それが2017年には平均年齢が45歳まで下がり、今や30代まで低下、多くの人に受け入れられているという。売れているのはe-MTBだが、近年は使い勝手のよさからステップインバイクの人気も出てきた。自転車といえば、かつては「ダイヤモンドフレーム」が定番だったが、自転車に対するイメージも変わりつつあるようだ。
こうしたe-BIKE市場の急拡大とともに、サイクルショップも大きく変わった。e-BIKEブームの中心にいるドイツを例にとり、難波氏は次のように説明する。
2006年の段階では、インターネット通信販売が力をつけ初め、以降、路面店の販売力が大きく落ち込んでいった。2013年頃には、都市部にオシャレ高級自転車を扱う店舗を見かけるなど、差別化を図る動きも見られたという。
そこから6年。かつてのオシャレ高級自転車店も、e-BIKE専門店に切り替わっていた。ミュンヘンにあるスペシャライズドの旗艦店に入ればe-BIKEばかりが並び、ドイツにはe-BIKE専門店が多数誕生。他の店でもe-BIKEが床面積が半分以上になったところが多数となった。
このようにドイツのスポーツ自転車事情は大きく変わったが、なぜ変わったのか、そのポイントを捉えることで、日本におけるe-BIKE普及に向けたヒントにもなりそうだ。どんなe-BIKEが売れているのか、なぜそれが売れているのかを考える必要がある。
難波氏はe-BIKEの売行きの傾向について、欧州全域で、e-MTBが6割、e-ロードバイクが3割ほどの比率になっているという。ドイツでは、e-MTBが8割、e-ロードバイクが1割といったイメージになるとのことだ。ここで重要なのは、e-MTBが圧倒的に売れているが、売れた理由として、購入者がオフロードを走りたいと思って販売が伸びているわけではないということだ。
難波氏は世界的に売れている高級SUVを例に挙げる。SUVを持っていても、所有者は荒野を走ろうとは考えない。e-MTBも同様で、それを購入したからと言って、みんながトレイルを走るような使い方にはならないという。年間100万台もe-BIKEが出荷されるドイツにおいて、多くの人はオフロードを走ろうとは考えていないはずだと指摘する。
車だと比較しやすい。本気の4WD車となると、オフロードでの走行をイメージする。しかし、ポルシェのカイエン(SUVの一種)がオフロードを走行する姿はイメージしにくい。両者には大きな違いがあり、それを言葉にすると、SUVは「快適」「洗練」「普通の人」、4WDは「質実剛健」「荒野」「職業用途」というキーワードが出てくる。
この関係性は自転車にも当てはまる。ロードバイクは、本来はレースをするための乗り物。ロードバイク購入者のうちJCFの登録レースに出ている人はほんのごくわずかとなる。そうした関係性を踏まえて、お客に自転車を売るときに「本当に100万円のロードバイクを買う必要があるのか」「普通の人はe-BIKEのほうが楽しいのではないか」を考えてもらい、理解いただいたうえでお客に売っていくべきだと説く。
ドイツではこの関係性に早い段階から気づき、自転車に強いこだわりを持たない人でも入りやすい接客に変えたことでe-BIKEビジネスで成功したと難波氏は話す。そうした人たちにも、一台100万円もするe-MTBがよく売れるのだという。
難波氏はe-BIKEの魅力についても触れた。同氏が挙げるのが「みんなで走っても同じペースで走れるのが魅力」と話す。スポーツというよりもアクティビティとして楽しむべきツールであり、走りながら会話を楽しむ乗り物とする。
楽しむために難波氏は「スピードを忘れてください」と強調する。e-BIKEの魅力は、“会話ができるアクティビティ”にある。風切り音を気にせず、会話が楽しめる時速15km以下がちょうどよく、時速16kmが限界だという。欧州でも時速15kmくらいのゆっくりとしたスピードでアクティビティを楽しんでいるというのだ。
では、日本で今後どうなっていくのか。難波氏は、日本にe-BIKEの力を発揮するのに適した環境が整っていると見ているようだ。日本の国土の7割は山岳地帯であることを指摘する。ただし、e-MTBでのオフロードの走行となると、日本には合法的に走行できる環境が整っていない。楽しめる場所が限られそうだが、難波氏は国内にも走行に適した場所があるという。
その筆頭が伊豆半島。伊豆半島には山中に縦横無尽に道が作られており、そうした場所で遊ぶことは可能だとする。離島もおすすめだという。東京在住の場合、伊豆大島、三宅島など離島に容易にアクセスできる。これらの島々はアップダウンが多く、多様な景色を楽しむにはe-BIKEがベストだと難波氏は話す。
こうしたベースを踏まえたうえで、日本でも欧州と同様の流れで、シニアがまずe-BIKEを買い求め、徐々に普及していくと、難波氏は予測する。そうしたお客の価値感をまとめると、バイク購入にあたっては価格は高くても最先端を重視、メンテナンスは専門店へ、サービスに不満がなければ同じ店舗で買い替えを行うと、難波氏は考える。ユーザー側から見ても、e-BIKEのメンテナンスには専門知識が必要。ユーザーとは一度の関係で終わらず、継続的な関係が生まれ、そこに次へつなげるチャンスがあると話す。
なお、e-BIKEを販売していくときの考え方として、避けるべきことがあるという。それは街乗り用途のみで見込客へ訴求していくことだ。欧州では電動キックボードの利用が急増しており、シェアサイクルを脅かす存在になっている。短距離の移動ツールとして、電動キックボードが揺るぎない存在となりつつある。日本にもこの流れが来る可能性が高いと見る。そのため、サイクルショップ店舗の担当者が持つべき姿勢として、みんなのツール(街乗り用途)、専門家のためのツールという2つの側面に対して「どちらもいいですよ」というオススメの姿勢を持っていたほうがいいとのことだ。
さらに、スキューバーダイビング業界を参考にすると、新たなサイクルショップの在り方が見えてくるという。e-BIKEは「ツアー(ガイド)」という役割をサイクルショップにもたらし、機材レンタル、修理においても商機はあるとみる。とりわけ修理については、e-BIKE乗車体験イベントの主体がサイクルショップではなく、宿泊施設のケースも多分に想定され、その際にメンテナンスニーズが生じる。そこにサイクルショップが絡んでいくことができるとしている。
最後に難波氏は、e-BIKEの普及によって、日本国内に「eバウンド」が生まれるのではないかとまとめた。eバウンドは難波氏が考案した言葉で次のように表現される。「e-BIKEに適した走行環境や、山岳地域、離島には、古くから日本人が生活して歴史を紡いできた遺跡や自然がある。同時に、維持の限界が近づいているこれらの地域の交通インフラ(=通行量皆無)を再活用して、日本にしかできない、日本ならではのe-BIKEによる既存のサイクルツーリズムの域を超えた観光アクティビティ」とする。
難波氏の言葉通り、e-BIKEは新たな観光アクティビティを日本に生み出すか。今後数年内に答えが見えてきそうだ。
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