2023.4.19
おおらかな山容と森林限界を超える絶景から、サイクリストの間で「日本のトゥールマレー(フランスの超級山岳)」とも称される渋峠。「国道最高地点」(2,172m)としてもその名が知られています。そんな渋峠の春の風物詩ともいわれているのが「雪の回廊」。降雪量の多さから冬季中通行止めとなっていた「志賀草津道路」が春の訪れとともに解除されると、季節限定の雪壁に挟まれた道を走ろうと坂好きのサイクリストが集まってきます。群馬県によると、今年の開通予定日は4月26日(水)午前10時。麓には草津温泉も待っている春の渋峠で、ベテランサイクリストはシーズンイン、ビギナーサイクリストはヒルクライムデビューを飾りましょう。
オススメポイント | 冬の間に積もった雪が作り出す「雪の回廊」は圧巻の迫力。距離は長いけれど斜度は全体を通して緩やか。その間にも活火山の草津白根山が見えたり、眺望が開けたスポットからは絶景が眺められたりと、上っている間も飽きさせない魅力に富んでいます。上りのゴールには達成感が感じられる「国道最高地点」、そして下った先には冷えた体を温める「草津温泉」という、サイクリストにとってご褒美盛りだくさんのヒルクライムコースです。 |
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レベル | ★★★(上級者向け) |
距離 | 51.4km |
獲得標高 | 1,914m |
出発地 | JR長野原草津口駅 |
終着地 | 草津温泉湯畑 |
立ち寄りスポット | 雪の回廊、日本国道最高地点碑、県境の宿渋峠ホテル |
国道292号沿い、志賀草津道路の群馬県と長野県の県境に位置する渋峠。草津から上る約20kmの上りは、かつて大会(※)が開催されるなどヒルクライマーに定評のあるコースで、長めの距離ながら平均勾配約5%というそれほどきつくない上りが、上り応えと楽しさの両方を演出してくれます。東京都心からクルマで約3時間、輪行でも新幹線の場合高崎経由で2時間強と、日帰りでも楽しめる距離感も人気の理由です。
※「ツールド草津」。2019年より当面中止
輪行の場合、JRの長野原草津口駅が最寄りとなります。当駅からだと渋峠への上り口までは10kmほど。ウォームアップをしてフレッシュな脚で臨みたいという人にはこちらがおすすめ。「もっと走りたい!」という健脚サイクリストには軽井沢駅からという選択肢がおすすめ。「日本風景街道」の一つ、「浅間・白根・志賀さわやか街道」を“前菜”にいただけるコースで、約46kmの間に雄大な山並みや広々としたキャベツ畑等、様々な景色を堪能できます。
ゴールデンウィーク前後は、草津に近づくほど多くのクルマやオートバイの交通量が増えます。「自転車の機動力最高!」と思う瞬間ですが、草津周辺は道路幅が狭いので接触しないよう注意して走行しましょう。
実質、ヒルクライムの上り口となっているのが「草津交差点」です。そこが上り開始のポイントであるのはもちろん、ちょうどよくコンビニエンスストアがあり、多くのサイクリストがそこでエネルギーを満タンにします。向かいには老舗の温泉饅頭屋「亀屋」もあり、補給がてら名物を味わうのも良いでしょう。
補給が完了したらいよいよ渋峠にアタック開始です。麓付近は観光客で賑わっていますが、高度を上げていくと次第に視界が開け、まるでヨーロッパのロードレースの山岳ステージを思わせるダイナミックな景色が広がります。
渋峠有する草津白根山は活火山で、同山周辺には有毒な火山ガスの噴気地帯が点在しています。通行の可否は草津白根山の噴火警戒レベルに左右されますが、昨シーズンに続き「レベル1」で今季も終日通行可能となっています(2023年4月現在)。ただ、場所によっては鼻を突くようにガス濃度が濃い箇所もあり、ところどころ看板で注意を促しています。
荒々しい自然は様々な絶景も見せてくれます。なかでもここ渋峠の景色の変化は全国でも群を抜いてダイナミック。視界に迫りくる雄大な山の景色、火山ガスの匂いや、荒涼とした雰囲気の草津白根山、そしてそれらを体感できるほど良い斜度…。スポーツ用自転車は、この自然のスケールを全力で体感するのにまさにうってつけの乗り物です。多くのサイクリストが渋峠に惹きつけられる理由はそこにあるのかもしれません。
上り進めると、いよいよ雪の回廊ゾーンへと突入。撮影スポットであることが暗黙の了解になっているようで、サイクリストやオートバイはそこで一時停止し、クルマの人は駐車場にクルマを止めて徒歩で訪れて入れ替わりで撮影を行います。
撮影スポットではそれぞれ注意しながら速度を落としますが、撮影に夢中になって通行の妨げにならないよう周囲に気を配ることも忘れないようにしましょう。
ちなみに昨年は降雪の回数が多く積雪量は前年の2倍ほどになり、雪壁は高いところで7mほどに達していました。今年はどうなっているか、行ってからのお楽しみです。
さらに上り進めるとようやくゴール地点の「日本国道最高地点」に到着。展望台では皆、最高地点ならではの絶景をバックに最高地点の碑とともに愛車と記念撮影をしていました。
ただ、この時期の休日は訪れる人が多く、碑周辺には順番待ちをする人たちでごった返すことも…。順番待ちの間に体を冷やさないよう、ウィンドブレーカーはもちろんインナーダウンを携行しておくことをおすすめします。
即下山するのも良いですが、少し休みたければ展望台から志賀高原方面に800mほど行ったところに「渋峠ホテル」があります。スキー道具や大きな暖炉などがあり、スキー宿としての長い歴史を感じさせます。
ちなみにここは群馬県と長野県の県境をまたいで建つホテルで、県境を示すラインがサイクリストに人気のフォトスポットとなっています。
下りでは上りのストレスを一気に解放したくなりますが、距離も長く、対向車の交通量も多いのでスピードを出し過ぎないように気を付けて。加えてずっと下りで風に当たるだけになるので、ここでも防寒着は重要です。ウィンドブレーカーの下にもう1枚着込めるインナーダウンの携行をおすすめします。
なお、天候によってはまだまだ雪も降る季節。悪天候を押して上ったり、装備に不備があったりすると低体温症になって動けなくなる危険がありますので、当日の天候や気温にはくれぐれも留意するようにしてください。
下山後のゴールはお待ちかねの草津温泉。日帰り温泉や足湯で冷えた体を温めるだけでも、サイクリストにとって天国のような場所になるでしょう。
翌日も休みなら温泉宿に一泊すると、一度で二度美味しい“自転車温泉旅”の出来上がり。上っている間はキツイけれど、上り終えた達成感で記憶が塗り替えられてしまうヒルクライム。そこに温泉に加われば、お仲間同士の春の恒例行事になること間違いなしです。
アウトドアメーカーの広報担当を経て、2015年に産経デジタルに入社。5年間にわたって自転車専門webメディア『Cyclist』編集部の記者として活動。主に自転車旅やスポーツ・アクティビティとして自転車の魅力を発信する取材・企画提案に従事。私生活でもロードバイクを趣味とし、社会における自転車活用の推進拡大をライフワークとしている。
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