2025.3.14
スポーツ用自転車を手に入れて少し経つと、構造がわかってきて色々と“いじり”たくなってくるもの。「整備・調整・部品の交換などによって性能を上げる」というチューニング/メンテナンスが手軽にできるのが自転車の良い点です。それらの目的は「愛車の走りから無駄をなくす」こと。その方法には「軽量化(パーツ交換)」、「空力性能向上(パーツ交換)」、「転がり抵抗削減(タイヤ交換)」、「回転抵抗削減(ベアリング交換)」など様々ありますが、一番手っ取り早くてコストもかからず、効果が大きい方法が何か知っていますか? それは「チェーンの洗浄と注油」です。
様々なメーカーの技術者の方々に自転車の走行抵抗・駆動抵抗についてお聞きすると、みなさん「ベアリングを高性能なものにするより、チェーンを掃除したほうがよっぽど効果が大きいですよ」と笑いながらおっしゃいます。
とある世界的ケミカル専門メーカーの実験によると、潤滑剤の種類によって駆動部でのロスが数%も変わるそうです。ちょっと専門的になりますが、400Wで漕いでいるときに数W~十数Wほどの差です。自動車のエンジンオイルやギヤオイルではコンマ数%の世界で試行錯誤していることを考えると、自転車における潤滑剤の役割は非常に大きいといえます。
潤滑剤の差でこれなのですから、チェーンが悪い状態(伸びて、錆びて、汚れが溜まって、オイルが切れている)と、良い状態(新品に近く、きれいに掃除されており、高性能チェーンオイルが適量注油してある)を比べると、その差はもっと大きくなるでしょう。楽に快適に速く走りたいなら、一にも二にも「チェーンの洗浄と注油」なんです。
それに、汚れたチェーンや伸びたチェーンで走っていると、スプロケットやチェーンリングの摩耗を加速させてしまいます。チェーンの洗浄と注油は他のパーツの寿命を延ばすことにもなるのです。
このように、愛車を「よく走る状態」に保つには定期的な「チェーンの洗浄と注油」が必要となるわけですが、チェーンオイルの寿命はオイルの種類、乗り方、乗る環境によって変わります。
異物がチェーンに付属しない環境であれば、良いチェーンオイルなら1000~2000kmは持ちますが、自転車は外を走るものなので、塩分や砂埃などの異物が付着します。よって現実的には数百kmといったところで、潮風が吹く海沿いや砂埃が舞うような場所では寿命はもっと短くなります。
ひとつ、チェーンオイルの寿命の判別法をご紹介しましょう。それは「チェーンを手でねじってみる」です。指先は汚れますが、簡単です。このときに「ヌルヌル」とした感触ならまだ大丈夫。「シャリシャリ」とした感触になってきたら、そろそろ洗浄&注油のタイミングです。注油したばかりの新品のチェーンをねじってみて、「新品のときのヌルヌル感」を覚えておくといいでしょう。
チェーンの伸びは、「チェーンチェッカー」という工具で測ることができます。それほど高い工具ではないので、自分でチェーンのメンテナンスを行いたいと考えている方は一つ持っておくと良いでしょう。
チェーンをねじってみたら見事にシャリシャリしていた? ではせっかくなので、ケミカルメーカーの技術者直伝の洗浄&注油法をお教えしましょう。
まず、チェーンにクリーナーをかけます。でも、クリーナーをかけてウエスで汚れを拭き取っただけでは表面がきれいになるだけで、それではほとんど意味がありません。
ではどうするかというと、クリーナー(揮発性が低く、水洗いができるタイプのもの)を吹きかけたら、ローラーを一つ一つ指でぐるぐる回します。そうすれば、チェーンの中にクリーナーが染み込み、汚れが撹拌されてゆるくなります。
その状態で数分置いたあと、水でチェーンをすすぎます。水が使えない環境なら、泡状のクリーナーをかけて、チェーン内部の汚れと洗浄成分を洗い流します。こうすればチェーンの中まできれいになり、ローラーの回転がびっくりするほど軽くなります。
チェーンを十分に乾かした後(水置換性があるオイルを使う場合は乾かす必要なし)、お好みのチェーンオイルを1コマに2滴ずつ注油したら、再びローラーを回して内部までオイルを浸透させて終了。
最後にコツをもう一つ。余分なオイルを拭き取るのは、オイルの溶剤が揮発する数時間後にしましょう。一晩置くとなおよし、です。注油後すぐに拭き取ってしまうと、潤滑成分も一緒に拭き取ってしまうことになります。時間を置くと、溶剤が揮発してチェーン内部に濃い潤滑成分が残った状態になります。その状態でチェーンの外側を軽く拭けば完了です。
これであなたの愛車は驚くほどスムーズに走ってくれるはずです。
自転車ライター。大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆し、信頼性と独自の視点が多くの自転車ファンからの支持を集める。「今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた」という自称、自転車大好き人間。
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