2021.3.12
山・海・川と、手つかずの自然がたくさんある徳島県。地形を生かしたサイクリングコースが多く、この土地が見せる美しい景観を親しむことができます。そこで今回は、徳島でも最北に位置する鳴門市から、海を一望できる絶景と世界最大級の渦潮、陶板名画美術館、そしてサイクリスト大歓迎ホテルのホスピタリティに触れられる、とっておきのルートを紹介します。(2021年1月取材)
(Text&Photo by Shunsuke FUKUMITSU)
オススメポイント | 鳴門海峡を筆頭に“6つの海”をあらゆる角度から眺望できるサイクリングルート。「世界三大潮流」といわれる鳴門の渦潮や、1000点以上の陶板名画に親しむことのできる美術館など観光要素もありながら、タフなアップダウンも待ち受けるチャレンジングなコース。 |
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レベル | ★★(中級者向け) |
距離 | 30km |
獲得標高 | 437m |
出発・終着地 | UZU PARK サイクルステーション |
立ち寄りグルメ | 大塚国際美術館・カフェ・ド・ジヴェルニー(モナ・リザのパンケーキ)、アオアヲ ナルト リゾート・テラスカフェオーゲ(鳴門鯛カツバーガー・スダチジュース) |
立ち寄りスポット | 鳴門公園、大鳴門橋遊歩道 渦の道、大鳴門橋架橋記念館 エディ、大塚国際美術館、アオアヲ ナルト リゾート |
出だしから個人的な話になり恐縮なのですが、今回紹介の徳島県鳴門市、かつて筆者が暮らしていたことがあり、たくさんの思い出が詰まった街なのです。2年ほどでしたが、それは楽しく、とても充実した日々でした。前を見れば海があり、少し足を延ばせば世界に誇る観光スポットが並ぶ。毎日を心穏やかに過ごすことができたのは、いつだってこの街の魅力に親しんでいたから。
そこで今回は、個人的にも当時を思い起こしながら、サイクリストの心を惹きつける鳴門の美しいコースをみなさんに紹介したいと思います。
このサイクリングで基点としたのは、鳴門市街地に位置するUZU PARK(通称:ウズパ)のサイクルステーション。2018年秋にオープンし、サイクリストのレストハウスとしてはもとより、更衣室(シャワーのみ有料)や工具の貸し出しなど、この施設をライドのベースとできるよう数々の配慮が行き届いています。
もっとも、無料駐車場が完備され、台数も豊富とあれば、「クルマで乗り付けて、バイクを組んでいざ出発!」なんてこともカンタン。また、四国各地や本州からの高速バスが停留する高速鳴門バスターミナルが目の前なので、ここを目的地に輪行でやってくることだってできます。
そんなウズパで準備を整えて、いよいよ鳴門ライドへと出発します。改めてルート全体を確認しておくと、ウズパをベースに南から北、そして北から南へと時計回りで進んでいくイメージ。スタートから7kmほどは西へ針路をとり、この間は市街地と国道11号を走行。交通量が多いゾーンなので、まずは慌てずに安全走行を心掛けましょう。
続いて向かうは、鳴門スカイライン。国道11号を走行していて、眼前に海が見えてきたら、鳴門スカイラインが近いことを意味します。道の入口には大きな標識も立てられているので、それを目印に北へと針路を取ります。
しばらく進むと、最初の難所であるタフなアップダウンを迎えます。上りは最大勾配11%。上りと下りをしばし繰り返すので、ペース配分は慎重に! さすがに苦しい区間ではありますが、きっと途中の橋から望む山と海の景色に魅せられることでしょう。
鳴門スカイライン全体では7つの橋が架かっていますが、いずれも高い地点に設置されているので、左右どちらを見ても絶景が堪能できます。上がる息を整えながら美景に浸るもよし、頂上めがけて突き進むもよし、思い思いにこの区間をチャレンジしてみてください。
頂上の四方見展望台(よもみてんぼうだい)からは、鳴門市内や紀伊水道、内海であるウチノ海を眺めることができます。地元のサイクリストにとっては、上りを攻めた後の休憩どころとして定番のスポットになっているので、立ち寄った際には素敵な出会いが待っているかもしれません。
ちなみに、この展望台があるのは島田島といって、徳島県の北東端に位置する離島。つまりは、鳴門スカイラインに架かる橋で海を渡ったことになるのです。四国本土と島田島に挟まれるのは小鳴門海峡。いっけん川のように思えるのですが、実は海なのです。
四方見展望台で一服したら、再び約4kmのアップダウン。今度は急な下りが長くなるので、スピードの出しすぎには要注意!
下り終えると、目の前に広がるのは鳴門海峡。ここからは、この海峡周辺の観光スポットをめぐっていきましょう。
まずは鳴門公園へ向かいます。このあたり一帯は瀬戸内海国立公園の一部になっていて、鳴門海峡や、四国と淡路島とを結ぶ大鳴門橋が隣接。公園内の千畳敷展望台からは、海峡と大橋のスケールが実感できます。
ここまで来たら、「渦の道」には絶対立ち寄りたいところ。大鳴門橋の橋桁内、いわば高速道路の真下に造られている海上遊歩道で、その高さは海上45m。雄大な海峡の景色と吹き抜ける潮風を体感できるとともに、途中4カ所に敷かれたガラス床からは波と波がぶつかり合う瞬間を目の当たりにできます。
450m歩けば、橋桁空間を利用した回遊式の展望室へと到達。世界三大潮流の1つとされる鳴門の渦潮を眼下に望むとともに、潮流がなす轟音が全身へと響き渡ります。
鳴門の渦潮は、瀬戸内海と紀伊水道の干満差によって発生するもので、春と秋の大潮時に最大になると言われています。特に、ゴールデンウィークの頃には直径20mにもなる渦潮が発生することもあり、その大きさは世界一とも。
また、渦の道と隣接する「大鳴門橋架橋記念館 エディ」は、この橋の歴史や構造の展示解説など、四国と淡路島をつなぐ世界的技術について紹介している体験型ミュージアムです。
最近では、海中をイメージし造られた空間“Play the Eddy!”が完成し、五感すべてを揺れ動かしてくれるショータイムが評判。両施設セットでの入館チケット販売もあるので、どちらも足を運んでみましょう。
なお、渦の道の内部は床がタイル敷きとなっているほか、構造上グレーチングが置かれている箇所があるので、ビンディングシューズでの入館はお控えを。
続いて、同じく鳴門公園内にある大塚国際美術館へ。日本最大級の常設展示スペースを有する陶板名画美術館で、古代壁画から世界26カ国190以上の美術館が所蔵する現代壁画まで、1000点あまりの西洋名画を特殊技術によってオリジナル作品と同じ大きさに再現し、展示しています。
年末の音楽特別番組で日本を代表する“あの歌手”が歌唱し感動を呼んだ場所、といえば分かりやすいでしょうか。同館の“顔”である「システィーナ・ホール」へ行くと、その感動がきっとよみがえることでしょう。
何より、日本にいながらにして世界の美術探訪を体感できるのが最大の楽しみ。イタリア、パドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂壁画を空間ごと再現した環境展示や、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」の修復前・後を比較できたり、ルーヴル美術館であれば近くでは見ることのできない「モナ・リザ」を至近距離で見ることができたりと、この美術館だからできる鑑賞方法もたくさんあるのです。
モネの大作「大睡蓮」は作者の夢をかなえるべく屋外展示し、35点ほどしか現存していないというフェルメールの作品も、代表作「真珠の耳飾りの少女」をはじめとして8点を再現展示しています。
もっとも、陶板だと2000年以上にわたってそのままの色と姿で残るので、作品ひとつひとつを記録するには最適な技術であり、文化財保存にも活用されているのだそう。ゴッホを代表する連作「ヒマワリ」にいたっては、世界各地に現存する6点に加えて、かつて日本にあり、阪神大空襲によって焼失した幻の1点も再現。全7作品が一堂に鑑賞できるのは、陶板だからこそのことです。
作品が見せる世界観は、館内のカフェやレストランにも反映されています。そのうちの1つ、「カフェ・ド・ジヴェルニー」は、モネの「大睡蓮」を眺めながら過ごすことができます。“アート”にちなんだメニューが展開されていて、今回おすすめしたいのが「モナ・リザのパンケーキ」(800円・税込)。
徳島県の特産品である鳴門金時のクリームとイタリア栗のクリームを2段重ねで挟んだパンケーキ。メープルシロップをかけていただくと、より味わいが増す贅沢なスイーツです。チョコプレートに描かれたモナ・リザの神秘的な微笑にもドキッとさせられることでしょう。
このパンケーキは2021年3月31日までの期間限定ですが、季節ごとのメニューや名作にちなんだ特別な一品、そしてもちろん通年でオーダー可能なメニューもそろっているので、名画鑑賞とあわせてぜひお立ち寄りを。きっと、その後のライドに元気と希望を与えてくれるはずです。
鑑賞ルートは総距離にして約4km。ゆっくりと全館めぐるのもよし、同館がおすすめするモデルコースを活用するもよし、その時の状況で鑑賞方法を決めてみて。グルメやお土産選びも館内で可能となっています。なお、館内の床が陶板でできていることから、環境維持のためビンディングシューズでの入館はお控えください。
ここからは紀伊水道を左に見ながら南下していきます。大塚国際美術館からはおおよそ2km、海側に大きな建物が見えてきます。それが、南欧風リゾートホテル「アオアヲ ナルト リゾート」です。こちらは「サイクリスト大歓迎」を大々的に打ち出していて、館内入口周辺のサイクルラック設置、宿泊時のバイク預かりなど、サイクリングで鳴門を満喫しようという人たちにやさしいホテルなのです。
今回は前述のとおりUZU PARK を発着地としましたが、遊び方によっては、このホテルをスタート・フィニッシュとしてもよいと思います。ここを出発して、鳴門の名所をぐるりとめぐって帰ってくる。ホテルには天然温泉やカフェ・レストラン、ショップとが充実しているので、ライド後の休憩やお買い物も館内ですべて事足りるのです。
その時は、ぜひ宿泊も! バラエティに富んだ15タイプのゲストルームは、昼間は太陽にきらめく海を、夜は打ち寄せる波と星空を、ときの流れに身も心も任せながら過ごすことができるのです。大きな空間と広いベッドが特徴的なお部屋「スーペリア ツイン ハイフロア」は、2020年4月にリニューアルしたばかり。サイクリングなど、アクティビティを楽しむ人たちに格別人気があるというこちらのお部屋が、宿泊の際のおすすめです。
もちろん、館内の利用については宿泊の有無は問いません(温泉は除く)。サイクリング中の食事であれば、1階・テラスカフェオーゲの「鳴門鯛カツバーガー」は必食です。特産品である鳴門鯛をサクサクに揚げ、トッピングにはこのホテルが位置する大毛島で採れたらっきょうと、これまた特産品の鳴門わかめを合わせた特製タルタルソースで味付け。
今回は1800円のドリンクセットをオーダー。数ある中から選んだスダチジュース、これも徳島名産のスダチを絞ったこちらのオリジナルドリンクです。飲食は店内に限らず、館内であれば持ち運び自由なので、風の穏やかな晴れの日であれば、海や淡路島を望むオープンテラスでいただきたいですね。
ここまでくると、フィニッシュまではあと少し。再び紀伊水道を見ながら南下し、途中から進路を変えて、内海のウチノ海、スクノ海とを横目に進み、小さな橋を渡りながら大毛島から高島へと移っていきます。
この間、スクノ海沿いの道は舗装の荒れている箇所があるほか、幅員が狭くカーブも多いので、通行する車両に注意しながらゆっくり走りましょう。
そしていよいよ、最後のアクティビティへ。高島と四国本土とを結ぶ渡船に乗って移動です。現在では四国本土と鳴門市北部の離島とは橋で結ばれていますが、昔からこの地域の人々の移動手段として渡船が愛され続けているのです。
多い時間帯でおおよそ20分おきに運航される便は、航行時間にして2分。筆者も鳴門住まいの頃は、何度も利用しました。小鳴門海峡を渡る渡船は無料で、バイクのまま乗船が可能です。
渡船を降りると、残すは1.5kmほど。少しばかり市街地を走って、UZU PARKへと戻ってきます。
走って・見て・触って・食べて・感じて…の30km。このルート、いくつもの海とともに走っていたことに気づかれたでしょうか? 小鳴門海峡・瀬戸内海・鳴門海峡・紀伊水道・ウチノ海・スクノ海。それぞれに見せる顔や自然の豊かさを感じながら走ることができる、開放感に満ちたサイクリングコースといえるでしょう。
最後に、地元民ならではの攻略法を伝授しましょう。このコースをモノにするには、風を味方につけることが一番! 春から秋にかけては海から吹く東や南からの風を、冬場は海からの北風と山から吹き下ろす西風を。いかにこの土地の自然を味方につけて、ライドを楽しむことができるか。これだけで、「鳴門スカイライン周遊コース」での思い出がより豊かなものとなるに違いありません。
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