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Interview インタビュー

「ツールの国」のスポーツジャーナリストが語る、フランスと日本の自転車文化

1.フランス人にとって世界最大のロードレース「ツール・ド・フランス」はどういう存在ですか?

 フランス人がスポーツである以上に文化だと感じているフランスの2大スポーツイベントはローラン・ギャロス(テニスの全仏オープン)とツール・ド・フランスだと思います。ラグビーやサッカーも人気があるけれど、多くがケーブル放送になって、代表戦くらいしか見られなくなっています。でも、ツール・ド・フランスは国営テレビが手放さないので、そこは自転車はフランスの国技だなと感じます。ローラン・ギャロスもつい最近ユーロスポーツに半分くらい放映権を売ってしまいました。
 ツール・ド・フランスが今でもたくさん見られているのは、フランスを旅するレースなので、フランスの地方を空撮でとても美しく映し出していて、プチ旅行気分を味わえるところだと思います。レース実況だけでなく文化解説が充実していて、地域のことやグルメ、歴史をずっと紹介していますからね。

 元々サッカーも私立の学校でやるブルジョアなスポーツでした。50年代、60年代にたまたま労働者の多い町に強いチームができて、庶民のスポーツになったけれど、アフリカや南米みたいに路上でボールを蹴るようなスポーツではなかった。でも自転車は唯一、庶民のスポーツだったんですよ。誰にでも手が届くちょっとしたラグジュアリーなものが自転車。20世紀の前半までは、1家に1台自転車があるのは車を持つような宝物だから、子どもは大きくなったらいつか乗らせてもらえるかなと憧れを抱いていました。そんな自転車のレースが自分の街の近くに来てくれる。それがツール・ド・フランスです。

2.「ツール」があるフランス出身のダバディさんは、ロードレース、そしてツールをどのように楽しんでいますか?

 ツール・ド・フランスはちょうど夏休み中に行われるので、フランスの子どもたちは幼いころからなんとなく親しんでいます。ランチを食べ終わると外はまだ暑いので、大人は室内でコーヒーを飲みながら、子どもは昼寝をしながら、テレビでやっているツール・ド・フランスを見ます。ずっとそう育ったから、フランス人には浸透していると思います。ものすごく興味を持って深々と見るかというと、それは人によって違います。
 テレビの前で見ているのは日本と同じ。仕事である程度お金を得た、あまりアクティブではない世代が見ていると思います。現代の子どもは他のことで忙しいから、何時間もずっと見ていられないと思いますし、大人もずっとそれを見ているほど余裕のある人は少ないと思います。
 私もスタートからゴールまで毎日観戦することはできないので、ハイライト番組を見たり、見たいステージを1つ2つくらい、山岳ステージの面白いところだけ時間を取って見たりしています。

3.日本では軽快車(いわゆるママチャリ)に乗る人が多く、自転車競技と聞いて競輪を思い浮かべる人も多いです。ヨーロッパの自転車文化を知るダバディさんは、日本の自転車文化の特徴はどんなところだと感じますか?

 日本の方は、サッカーにしてもテニスにしても、海外に行くと「スポーツが文化になっている」と感じられるようですね。それは例えばイギリスのパブのように、見終えた後にみんなが同じ場所に集まって語り合う場所があるのも、1つの要因ではないでしょうか。東京にはそういうスポーツバーも増えてきていますが、地方ではどうでしょう。語り合う場はまだ少ないのではないでしょうか。
 日本のバッティングセンターは古いかもしれないけど、街中にあるのは良いですよね。でも、いつまでもレトロで(昭和)ロマンな場所のままにしておくのではなく、楽しく、面白くできないと残らない。もっとキレイにして楽しく野球ファンが集まれるようにしないと。
 自転車に関しては、かっこいい自転車ショップはたくさんあるし、良い自転車は安くなってきたし、スポーツバイクが好きな人がいっぱいいると思うので、風向きは良いのではないでしょうか。自転車の小説や漫画は日本的文化といえば文化ですよね。