2023.7.20
1泊2日のキャンプに必要なキャンプギアを紹介した前回に続いて、今回はそれらのアイテムを自転車に積載する方法について、トラベルライターの山下晃和さんに聞きました。
山下さん:前回の記事で、自転車のキャンプツーリングに必要なアイテムは、テント、寝袋、マットの「三種の寝具」だと紹介しました。それ以外では衣類がわりと嵩張ります。夏場であれば、それほど防寒対策をしなくて良い分、軽量にはなりますが、汗をかくので着替えを持っていく必要があるでしょう。
キャンプ場までの距離が短いのであれば、バックパックにまとめて背負うスタイルでも問題ないですが、荷重が全てお尻一点に集中するので、5km以上でもお尻が痛くなったり腰を痛めたりと安全運転に支障をきたしかねません。そのため自転車専用のバッグ類を一式揃えると良いでしょう。これで身体の負担を軽減できます。
自転車に「キャリア」が付いている、またはキャリアを付けられる「ダボ穴」があり、サイドバッグやパニアバッグといった自転車のキャリアに付けられるバッグ類がある場合は、比較的簡単にたくさんの道具が入れられるので、実は初心者にはオススメのスタイルです。
現在売られているバッグ類は1つ20リットル程度(左右で40リットル)と容量が大きい物が多いので、「もしかしたら使わないかもしれない」と思いつつ自分の「こだわり」として持っていきたい大きめのギアも運ぶことができます。
例えば焚き火台。せっかく焚き火可能なキャンプ場に行くなら焚き火を楽しみたいと思っている人もいるでしょう。パニアバッグなら、道中に薪が買えるホームセンターか、キャンプ場に手頃な薪が売っていたらトライしてみよう、という余裕ある行動が可能です。
これらのバッグ類は物の出し入れも楽です。開口部が広く、防水性を高めるためにクルクルと巻いて閉じる「ロールトップ」という形状のバッグが多いので、中にあるキャンプ道具が見つけやすく、収納時に適当な順番で入れてもなんとかなります。
前後左右の4つのバッグを装着することを「4バッグ」、または「フルパニア」といい、フロントバッグまで付ければ計5つ積載できます。日本一周や海外自転車旅など長い期間、長い距離を走るにはこのスタイルの方が恩恵を受けるでしょう。
デメリットとしては、キャリアとバッグをセットで購入するとそこそこ価格が高くなってしまうことと、輪行をする時に重たくなってしまうことです。また、ダボ穴などが付いていない自転車の場合は、色々と工夫しなければキャリアを搭載できないので、カーボン製のロードバイク等では現実的に厳しいと思います。
自転車にキャリアが付いておらず、付けられるダボ穴(ネジ穴)なども無い場合は、大型サドルバッグ、フロントバッグ、フレームバッグに収納するバイクパッキングスタイルを選択することになります。
もとは2007年に米国アラスカ州発のブランドが提唱したスタイルで、ラックなしのマウンテンバイク(MTB)に荷物をパッキングし、山を走りながらキャンプをする旅のことを「バイクパッキング」と呼んでいました。ところがここ最近は、自転車の車種関係なく、キャリアなしで積載するスタイルのことをこう呼んでいるようです。
このようなスタイルが加速した背景には、2000年代に入ってガレージブランドやMYOG(Make Your Own Gear)といった自作のアウトドア・キャンプギアによって「UL」(=ウルトラライト、定義は水・食料・燃料等の消費アイテムを除いたベースウエイトが4~5kg)の台頭があると考えられます。日本よりも先に米国のロングトレイルを歩くスルーハイカー達の試行錯誤によって、軽量で耐久性のあるアウトドアギアやブランドが一気に増えました。
こうしたULのアイテムで構成するバイクパッキングは、いわゆる「玄人向け」のスタイルです。サイドバッグやパニアバッグスタイルに比べると積載容量が少なくなり、中の物が取り出しにくなるためパッキングにも工夫が必要になります。
しかしながら道具を積載していても走りに影響しにくかったり、自転車の選択肢も広がるのでトレイルやグラベルといった未舗装路での走行が楽しめたり、輪行をする時にキャンプ道具を運びやすいというメリットもあります。また、キャリアの購入が不要な分、全体的な価格も抑えられるでしょう。
パニアバッグスタイル、バイクパッキングスタイルとそれぞれに一長一短はありますが、積載方法のコツには共通する部分があります。それは「マスの集中化」をすることです。重心を真ん中近くに置くと走行性能を妨げません。重たい荷物が身体に近ければ近いほど、自転車のライディングに影響が出ないのです。
逆にバッグの後ろの方に重たい荷物を載せると左右のバランスが崩れた時に車体が大きく揺れてしまいます。なので、バイクパッキングスタイルであればフレームバッグに液体系やモバイルバッテリー、工具類など重たい物を集めると良いでしょう。嵩張るけれど軽量な衣類や寝袋は外側でもOKです。パニアバッグの場合も身体に近いところに重い物を入れて、後ろに軽いものを積むようにします。左右の重さはなるべく等しくなるように調整します。
さらに、前後に荷物を満載した時には、フロントタイヤの空気圧をリアタイヤの空気圧よりも少し下げる(5~10psi程度)と疲れにくくなります。自転車は人間が乗るとほぼリア荷重になるので、これをすると前上がりを防ぐことができます。また空気圧を抜くとタイヤが柔らかくなり、サスペンション効果も出て腕や腰の負担も軽減します。
個人的には、自転車でキャンプツーリングをする際、全行程自走するよりは公共交通機関との輪行を組み合わせる方が好きです。自分の生活圏から一気にワープでき、オートバイやクルマではできない自転車旅ならではのキャンプ旅になるからです。
それぞれ交通手段によって「飛行機輪行キャンプツーリング」、「鉄道輪行キャンプツーリング」と呼びます。飛行機の輪行は初心者には難しいと思われがちですが、鉄道輪行等と比べたら圧倒的に簡単です。輪行バッグに入れた自転車とキャンプ道具を入れたバッグを運ぶ際、空港内であればカートが利用できます。
また、空港内の駐車場を利用すればさらに便利。クルマに輪行状態にした自転車とキャンプ道具を積載すれば、あとは駐車場のエレベーターの前に置いてあるカートに移し替えて運べるのでスムーズです。
海外の航空会社を利用する場合はさすがに破損しないように自転車を保護しますが、自分の経験上、国内線では通常の輪行バッグでトラブルが起きたことはありません。パニアバッグスタイルよりは、バイクパッキングスタイルのほうが輪行のしやすさはありますが、どちらも一度経験すれば簡単にできるようになるでしょう。
飛行機輪行キャンプツーリングの良さは言うまでもなく、地球上のどこへでも、ご自身の愛車で旅ができるようになる点です。
タイクーンモデルエージェンシー所属のモデル。自転車、バイク、クルマ、登山で旅をして記事を書くトラベルライターとしても活動。主にサイクルマップ、自治体の冊子、WEB、雑誌などに寄稿。海外30カ国以上を自転車で旅した経験を活かし、自転車とキャンプをテーマにした旅フェス「BIKE&CAMP」の実行委員長となる。自転車キャンプツーリズム協会(BACA)理事。JACC(日本アドベンチャーサイクリストクラブ)評議員。
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