TOPインタビュー大久保修一 インタビュー

Interview インタビュー

永く、楽しく、愛車に乗り続けるために
~プロ・メカニックからの提案~

1.大久保さんは、選手として活躍された後に、ジャパンカップやツアー・オブ・ジャパンなど国内の主要な大会のほか、アジアのレースを駆け回るシマノテクニカルサポートメカニックに転身されました。そのきっかけを教えてください。

 1977年に株式会社シマノに入社し、レーシングチームの選手として4年ほど活動しました。81年に選手を引退し、自転車のパーツに関わる開発部門に移りました。その後、ツール・ド・フランスなどにもメカニックとして参戦した経験を持つ大先輩から「レースのメカニックをやらないか」と誘われ、85年からシマノ・レーシングチームのメカニックとの二足のわらじを履くことになりました。シマノテクニカルサポートメカニックとして2005年まで活動し、現在はシマノ・レーシングチームのメカニックとして選手のサポートをしています。

2.これまで、レースのメカニックを務められてきて、嬉しかったことや励みになったことは何でしょうか。

 まず、整備そのものが大好きだったので、メカニックになれたこと自体が大きな喜びでした。レース会期中には好きなことを毎日できるのですからね(笑)。当時、メカニックに誘ってくださった先輩からは、ロードバイクからマウンテンバイクまで、自転車全般のメカの構造と整備方法を教え込まれました。その教えと経験が、今の財産となっています。

 レース中は、チームの選手がいい成績でフィニッシュすることが最大の喜びであり、励みになります。チーム内では信頼関係を築くことが大切なので、特に選手とは常にコミュニケーションを取っています。選手たちは自分の子供と同じような若い世代ですが、彼らは選手としての自覚をしっかりと持っていますし、こちらもプロとしてレースに集中させてあげたいという気持ちが強いですから、レースの会期中に怒ったことなんて一度もありませんよ(笑)。レース用のバイクは天候やコース設定に応じてセッティングを変えるのですが、選手から「今日のホイールは何がいいですか?」などど、頼られ、相談されるのが何しろ嬉しいです。

3.レース会期中、選手用の自転車整備で心掛けている点はありますか?

 丁寧に、かつ集中して整備に努めることです。例えばツアー・オブ・ジャパンでは6人分、実業団のツアーレースでは8人分のレース用自転車を、レースごとに整備します。整備には、自分なりに制限時間を設けて取り組んでいます。洗車は7~10分以内、メカの調整と整備は10分以内と、1台あたり合計20分で仕上げるようにしています。ですから、3台で約1時間とすると、最も多い8台だと、少しの休憩時間を含めて約3時間かけて整備にあたる計算になります。

4.30年もの永きにわたり、メカニックとしてレースを見続けた中で、印象深い出来事がたくさんあったとお聞きしましたが、教えていただけますか?

 お話しするほどのエピソードはないですよ(笑)。レース会期中は、トラブルが起きないことを常に願っています。メカニックは選手の自転車だけの面倒をみていればいいのでしょうけれど、やはり選手のケガや病気には気を遣います。海外、特にアジアなどでは病院などの救急医療体制が十分に整っていない地域もありますから、神経質にもなります。

 アクシデントといえば、日本の山あいのダムを周回するレースで、オフィシャルのニュートラルカー(レース中の選手をサポートするため、大会主催者が用意する中立的な立場の支援車)にメカニックとして乗っていたとき、周回遅れの選手がガードレールを飛び越えてダムに向かって落ちていく瞬間を私ひとりが目撃したことがあります。すぐさま救助に向かったのですが、幸い、その選手は途中の木の枝に引っかかってダムにまで落ちていなかったので、ケガは軽傷ですみました。ですが、私が居あわせていなかったらと思うと、今でも恐ろしいアクシデントでしたね。

5.レース用のロードバイクと一般のスポーツ用自転車とは、基本的なメンテナンス方法は違うのですか?

 まず、レース用のロードバイクは毎回レースが終わったら必ず洗車をします。メンテナンス面でいえば、大きな違いはこの洗車くらいでしょうか。一般のスポーツ用自転車も、乗った後に毎回洗車するのが理想ですね。ですが、手間もかかりますし、居住環境によっては洗車自体が難しい方もいるでしょう。

 なので、水洗いは無理としても、毎回ウエス(布きれ等)でチェーンの汚れを落とすだけでも、ずいぶんと違いますね。併せて、定期的に行いたいのが、チェーンの注油です。ただ、一般の方の自転車を見ますと、オイルを注すときに必要量以上のオイルを注している方もいます。油の量が必要以上に多ければ汚れが付きやすくなるなどのデメリットも発生するため、注油はチェーンのつなぎ目に適量を落とすだけで十分なのです。また、余分な油は軽くふき取っておくと良いでしょう。通勤や通学で使う自転車は、毎日乗るものですので、乗る距離も意外に長くなっているでしょう。天気に関係なく乗る方は、特に自転車へのダメージは大きいものです。やはり少なくとも年に一回は、「SBAA PLUS」認定者などの信頼できるプロに点検してもらうことをオススメしたいですね。

6.スポーツ用自転車を通勤や日常の足、趣味として愛好する人が増えています。日頃から、愛車に向き合う姿勢としての基本的なアドバイスをお願いします。

 本格サイクリングシーズン前のこの時期はメンテナンスの絶好の機会でしょう。まず、目に見える部分として、タイヤの摩耗状態と、シフトやブレーキなどのワイヤー類の劣化をチェックしてください。そこで、「普段と違うな?」と感じたときには、専門のショップに相談することが第一です。とりわけ初心者の方は、メンテナンスで信頼できる馴染みのショップを見つけることが大事ですね。行きつけのショップになれば、その方の乗り方のクセや好みをショップが知ることにもなり、メンテナンス・パーツの交換・次回の買い替え等の際には、より適切なアドバイスをもらえると思います。店頭に認定証のある「SBAA PLUS」の認定者がいるショップであれば、日頃のメンテナンスも信頼して任せることができます。(SBAA PLUS認定者在籍店舗一覧はこちら
 このようなショップでは、常連のお客さんと一緒に走行会などを楽しむチームを作っている場合も多いので、小物などの購入で何度か通っているうちに、「一緒に走りませんか?」と誘われるはずですよ(笑)。

 ショップの早朝練習や走行会に参加することで、まず自転車仲間が増えます。走行会などでは、ショップスタッフや仲間たちが、スポーツ用自転車を楽しむノウハウを教えてくれます。また、スポーツ用自転車につきもののパンク修理法のほかに、補給食やドリンク、チューブ修理キット、携行ポンプや瞬間空気注入材など、エクササイズを兼ねた走行練習や遠出のサイクリング中に必ず必要になる携行品の種類と、その使い方を教えてくれます。「一人前のサイクリスト」になるための基本知識は、ショップに関わるイベントやスタッフが教えてくれる情報から、自然に覚えて身につくでしょう。

7.自転車を愛好するサイクリストへ、メカニックの目線で日頃のメンテナンスでのアドバイスをお願いします。

 自転車はどんなに良いフレームであっても、それだけでは走れません。基本的には、ペダルを踏む力を、チェーンを介して、動力として効率よく車輪に伝えることで、初めて快適に走ることができる乗り物です。
 自転車もブランド化して、プロのレースシーンでもよく目にする有名なロゴが入った入門用のロードバイクやクロスバイクが手頃な価格で広く流通しています。高価な自転車ほど、パーツ類も耐久性に優れたコンポーネントで組まれた製品として出荷されるのが一般的です。一般のサイクリストがサイクリングや通勤などを目的として購入したスポーツ用自転車であっても、有名メーカーの標準グレードのパーツで構成されていれば、定期的にメンテナンスを行なうことで耐久性が維持されますし、消耗してしまった個々の部品は交換することで、“永く付き合える愛車”になるでしょう。まず、乗った後は愛車を必ずチェック(点検)してあげて、不具合や気になることがあったらショップに相談するか、正しい方法で常にメンテナンスしてあげて、末永く愛車と付き合ってください。プロ選手でない皆さんも、「マイ・プロメカニック」と呼べる信頼できるショップをみつけておくと、自転車の楽しみがより広がると思います。