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Interview インタビュー

スポーツ用自転車でおいしく・楽しく・健康的なサイクルライフを
~サイクリストのための食事法~

1.河南さんは、管理栄養士として、自転車のロードレースを含め、様々なスポーツ選手を栄養面でサポートされてきましたが、ロードレースはどのような特性がある競技なのでしょうか。

 私はロードレースを、「超持久系」の競技だと言っています。数百キロの距離を、5〜6時間、ずっと動き続ける競技は、他にあまりありません。そして「食」の面からみると、長時間のレースではエネルギーの補給が必要。自転車はランニングのように上下動がなく、胃に負担が少ないので、走りながら食べることがあります。これはレース系の競技では極めて珍しいと思います。そのような競技ですから、サポートしていても「自転車の選手は『食』への意識が高いな」と思うことが多いですね。

2.ロードレースの選手には、普段の食生活、大会前の食事にどのようなアドバイスをされるのでしょうか。

 競技によって普段の食事が大きく異なるということはなくて、何の選手であっても、大切なのはバランスの良い食事。私は、主食で炭水化物、おかずでたんぱく質、野菜の小鉢でビタミン等を摂り、そして乳製品と果物をつけるのを基本形として指導しています。

 レース数日前になると、選手は「カーボローディング」といって、おかずを控えめにしてその分エネルギー源となる炭水化物を増やします。炭水化物は糖質となって体に吸収され、エネルギーに変換されます。ただし、糖質の種類によって、この吸収の速さが異なることにも注意が必要です。炭水化物は、糖質に比べてゆっくり吸収されます。それに対し、砂糖などは糖質の中でも速く吸収される食品ですから、大会当日は、競技の2~3時間前に炭水化物を摂り、直前は甘いものを食べるなど、ポイントポイントで糖質の種類を変えていきます。

3.健康づくりやダイエットで自転車を始める方もたくさんいますが、そういった方に食事面でのアドバイスをお願いします。

 やはりバランスの良い食事が一番です。最近は炭水化物を全く摂らないといったダイエット方法が話題になっていますが、エネルギー源がなければ、長時間の運動はできません。最悪の場合、エネルギー切れで体が全く動かなくなる「ハンガーノック」を起こすこともあります。自転車は長時間乗れることが良いところです。エネルギーを摂らないと長時間乗れなくなり、結果的に効果を薄くしてしまいます。

 また、ダイエットで重要となるのが、血糖値を一定に保つことです。血糖値は空腹時に下がって、食事をすると(糖質を摂ると)上がります。空腹時に急に食べ過ぎると血糖値が急激に上がり、インスリンが大量に分泌されます。インスリンには、使いきれなかった糖を脂肪に変えて蓄える働きがあるため、大量に分泌されると、太りやすくなってしまいます。そのためアスリートには、食事を5回くらいに分け、少しずつ食べることを勧めることがあります。ただ、一般の方は何度も食事を用意することは難しいと思いますので、まずは3食しっかり偏りなく食べることを意識すればよいと思います。
 筋量アップを目指す方は、トレーニング後にたんぱく質を摂ってください。筋量アップに必要な栄養素はたんぱく質や必須アミノ酸と一般には知られていますが、アミノ酸はたんぱく質が分解されたものですので、たんぱく質を摂っていれば、体内でアミノ酸に分解されて吸収されます。9種類の必須アミノ酸全てをバランス良く摂ろうと思ったら、動物性のたんぱく質(魚・肉・卵)から摂るのが最も効率が良いです。

4.簡単に必要な栄養素が摂れる、おすすめのメニューを教えて下さい。

 バランスの良い食事を、ワンディッシュで手軽に作れるのが「ぶっかけうどん・そば」です。
 これは、うどんやそばに、レタスやパプリカ等の野菜、ツナの水煮缶詰等の具を乗せたカンタンな料理。うどんやそばは炭水化物で、とくにそばは、エネルギー代謝のために必要なビタミンB1が豊富です。そして野菜で食物繊維やビタミン、ベータカロテンを補い、ツナでたんぱく質を摂ります。ツナ缶はオイル漬けでなく、水煮缶であれば、脂質はかなりカットできます。
 それと、疲労回復のためには、クエン酸も摂りたいですね。クエン酸は柑橘系の果物や梅干し等、酸っぱいものに含まれる栄養素です。そこで、ご飯ものなら酢飯を使った混ぜご飯はいかがでしょうか。混ぜご飯はいろいろな具が入れられますが、おすすめは、たんぱく質のほかビタミンCも豊富に含まれる枝豆。それに、たんぱく源として、かにかまや、ビタミンB1の多いポークハムなどをまぜると、おいしくて、見た目も鮮やかです。

5.運動中は、水分の補給も重要となります。どのようなことに注意すればよいでしょうか。

 人体の約60%は水分で、そのうち2%が脱水するだけで、著しく運動のパフォーマンスが落ちます。体重50キロの人であれば、運動後の体重が48~49キロになっていると、水分補給がうまくいっておらず脱水状態になっていると言えます。夢中で自転車をこいでいると、脱水状態に気づかないことも多いので、「200mlを10~15分置きに飲む」など、時間を決めて水分補給する習慣をつけるとよいでしょう。
 また、汗には水分のほか、ミネラルも含まれています。60分程度の運動であれば水だけでも良いのですが、それ以上の長さであればミネラル分が含まれるスポーツドリンクがよいでしょう。ただ、スポーツドリンクは、糖度が6~7%くらいありますが、運動中は糖度2.5%くらいが最も水分を吸収しやすいので、水で半分くらいに薄めて飲む方も多いです。

6.ロングライドの後にはどのようなものを口に入れればよいでしょうか。

 ロングライドの翌日でも元気に仕事や日常生活をするために、疲労回復は大切です。疲労回復のためには、運動後なるべく早く、たんぱく質と糖質、水分を補給することが重要です。
 レースでは、競技後に飲む「リカバリードリンク」があります。糖質とたんぱく質の量は3:1が最適だとされていて、その割合で作られた、リカバリー専用のプロテインもあります。また、同じような効果を簡単に得られるのが、オレンジジュースに低脂肪乳を半々くらいで混ぜたものです。オレンジにはクエン酸も含まれていますから、疲労回復に最適です。

7.最後に、健康的に、楽しくスポーツ自転車を続けるためにアドバイスをお願いします。

 食事は、栄養を摂るだけではなく、リラックスや気分転換、社交の手段でもあります。アスリートに厳しい栄養管理が必要であるのは確かですが、健康づくりのためにスポーツ用自転車を楽しむ方は、ガチガチに考えず、無理をしないことも大切です。
 たとえば、観光を兼ねたサイクリングで、景色のよい道を走って、その場所の名物の食べ物を楽しむこともある。その中には、脂質の多い料理もありますよね。栄養学の面からは、運動前にそのようなものを食べるのはあまりおすすめできないですが、せっかく観光を兼ねて出かけているのですから、「食べたい」と思うのもよくわかります。普段の生活でも、たまには羽目を外して食べ過ぎてしまうこともある。でも、あまり深刻にならず、楽しむときは楽しんで、その後、また運動すればOK。無理なく楽しく、スポーツ用自転車を楽しんでいただきたいと思います。

【河南さんよりコメント】
食べ物も自転車も、最も大切なことは「安全」。安全性を信頼するからこそ、食べ物を口に入れたり、自転車に体を預けたりすることができます。栄養価の高い、よい食材を食べること、しっかり整備された良い自転車に乗ることは、どちらも、サイクリングを健康的に、永く楽しむための条件だと思います。