TOPインタビュー「僕しか知らないこと」を伝えたい 元五輪代表・山本幸平さんが描くMTB界の未来

Interview インタビュー

「僕しか知らないこと」を伝えたい 元五輪代表・山本幸平さんが描くMTB界の未来

山本幸平(やまもと・こうへい)

Yamamoto Athlete Farm代表/公益財団法人日本スポーツ協会公認自転車競技コーチ
北京オリンピックから4大会連続オリンピック日本代表 全日本選手権では12度の優勝、アジア選手権では10度優勝を果たし、2013年には世界ランキング11位となる。MTB界の第一人者。これまでの経験を生かして、これからの若い世代へスポーツの素晴らしさを伝えていく活動を行なっている。

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 2008年の北京五輪から2020年の東京五輪まで、4大会連続でマウンテンバイク クロスカントリー・オリンピック(MTB XCO※)の五輪日本代表として活躍したのち、競技の第一線からは身を引いたものの、現在も国内外のレースに積極的に出場し、若手と共に走り続けている山本幸平さん。いまは「YAMAMOTO ATHLETE FARM」を運営し、その豊富な経験を次世代の若者に伝承し、パリ五輪が開催される今年は活動範囲をアジアへと拡大しています。国際的にも選手育成を推し進める山本さんに、その背景と思いを聞きました。
(※舗装されていない山道を走るMTBレース。オリンピック競技では岩や木の根、ジャンプ台などを含んだ1周4km程のコースを一斉スタートで周回し、その速さを競う)

「最後にしよう」と思って挑んだ東京五輪

─東京五輪までの4大会16年間、トップアスリートとして走ってきましたが、印象深い大会はありますか?

 もちろん、すべての大会にそれぞれ思い入れがあるのは確かですけど、やはり最後の東京がもっとも感慨深い大会ですかね。自分自身が「最後にしよう」と思って挑んだ大会でしたし、そこに向けて気持ちを高めていくこともできたし、そういう自分を披露するという意味も含めて、充実した大会でしたね。そして新型コロナウイルス禍でもあって、世界中の人々の協力があって開催された中でMTBは有観客で行われて、日本の多くの人に世界のレベルをリアルに体感してもらえたのは嬉しかったです。

東京五輪のために用意された伊豆MTBコース前半に登場する難所「天城越え」を走る山本さん

─オリンピックにおけるMTBクロスカントリー競技に何か変化を感じていますか?

 何よりも機材としての自転車が変わりましたね。最初は26インチが当たり前で、当然コースもそれに見合った感じでしたが、27.5インチ、29インチと自転車の性能がどんどん良くなって、タイヤもチューブレス、前後サスペンションのストロークも増えて、レースの内容もそれに伴ってハードになりましたね。コースが難しくなったというよりも、自転車の性能が上がった、という事だと思います。

日本人離れした体格、手脚のリーチの長さで難易度の高いラインを積極的に攻める姿は、コースサイドのファンを魅了した

─そんな中、世界で戦うために日本の選手に求められる要素は何だとお考えですか?

 まずはなんと言ってもチャレンジ精神ですかね。諦めないこと。現状に満足してしまったら、そこで終わりだと思うんです。日本国内で満足してしまったら世界には届かないし、そこで成長は止まってしまいますから。良いか悪いかではなくて、どこまで求め続けられるか、諦めない気持ちがあれば道は続いていくと思います。

UCIチームを結成「どんどん自分を売り込んで」

─ご自身が運営する「山本アスリートファーム」の活動について教えてください。

 まずは選手育成に重点を置いたイベントに取り組んでいます。「レインボーカップ」というレースイベントを継続して開催しています。あとはMTBの普及に向けた活動です。MTBクラブには若者から熟年の方まで所属してくれていて、僕と一緒に走ることで技術や精神面を継承していけたらと思っています。昨年まではレーシングチームとしての運営もやっていましたが、今年は僕が若手の目標となるように、選手としてレースに出たりしています。

自身が主催する「レインボーカップ」では次世代のキッズ達に向けて、その経験を惜しみなく伝えている

─ご自身のスクール、レッスンにおいては何に重点を置いていますか?

 東京五輪を終えてから、自分自身の考え方を見直す中でやっぱり僕は競技者志向が圧倒的に強くて、また多くの実戦を経験してきた張本人でもあるわけで、それが僕の強みなのかなと思っています。僕しか知らないこと、体験していないこと、それを伝えるのが僕の本分なのかなって。そうじゃない部分は他の先生方にお願いして(笑)。強くなりたい人、世界を目指したい人、向上心のある人、そういう人の助けになれたらと思っています。

─今年からアジアにも活動の範囲を広げました。

 今年から「アジアンユニオンTCSレーシングチーム」というUCIチームを立ち上げました。これは山本アスリートファームとは関わる人が少し違っていて、より分業化して、僕はその中でチーム監督として携わっています。このチームには日本、シンガポール、インドネシア、フィリピンから4人のライダーが所属していて、みんな若手なんですが、次のロス五輪に向けて彼らを強くする、そういう活動をしています。

「レインボーカップ」では子供達を先導して一緒に走る姿も!キッズ達にとっては夢のような体験だ

─どうやったらこのチームに加入できますか?

 自薦でもかまいません。今はSNSも普及していますから、どんどん売り込んできてほしいと思っています。ただ、実際にそういう人は皆無なんですよ。まずは僕達にアピールしてきて欲しいですね。そして一緒に乗りましょう。そこから道は繋がっていくはずです。

─この活動の目指すゴールはどこですか?

 チームとしては世界一です。次のロス五輪で活躍できるような環境作りも重要でしょう。そしてアジア地域におけるMTBの普及はもちろんですが、ビジネスとしてもちゃんとお金を生み出せるような仕組みを作りたいと考えています。日本国内でいうと、MTB競技が国体やインターハイに採用されたりすると、そこでまた仕事が発生します。公営競技にもMTBの可能性があるのでは?と思っていますし、実現化に向けた活動もしています。インフラづくりをする中で、MTBに触れる人、続ける人、仕事にする人が増えるはずで、そういう未来を目指しています。

イベントに参加したキッズ達と記念撮影

─最後に、五輪出場を目指す子どもたちにメッセージをお願いします。

 夢に向かって諦めない強い気持ち。そういう強い気持ちをもってやり続けて欲しいですね。その先に、必ず道は切り開けると思います。

(聞き手・写真:中川裕之)