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Interview インタビュー

本場ヨーロッパのレースシーンに身を置く第一人者・新城幸也が語る「自転車ロードレースの仕事」

—自転車ロードレースのプロ選手の「仕事」って一体どういったものですか?

 自転車ロードレースを走るプロのスポーツ選手として、チームと年俸制で契約しています。レースの成績によっては賞金が出ることもあり、年俸と賞金でプロ選手として成り立っています。UCI(国際自転車競技連盟)のもと、1日で開催されるワンデーレースや、数日〜数週間にわたるステージレースなど、たくさんのレースが世界中で開催されていて、僕の場合は年間70から80のレース、距離にして年間3万km近く自転車で走っています。レースのシーズンは、1月〜11月です。12〜1月がオフとトレーニング期間ですね。チームのキャンプが1〜2週間あるのですが、あとはレースの合間にトレーニングをしています。

—自転車ロードレースのチームにはたくさんの選手がいますが、新城選手はどのような役割なのですか?

 チームの中でも、選手によって役割があります。簡単に言えば「エース」と「アシスト」です。エースは、優勝するための期待を背負う存在で、レースによって誰がエースかは異なります。また、レース中の展開によってもエースを担う選手が変わることはありますが、エースが勝利を目指し、アシストがエースのために働くのです。僕のチームの中での立ち位置は、アシスト選手です。レースの展開によって勝負させてもらえることもありますが、基本的には勝負所までエースが力を温存できるように助け、危険から守り、チームカーからエースのもとに飲み物のボトルや補給食を運んだりといった仕事をしています。レース前のミーティングで、どのようなレース展開にするのか共有し、他チームの動きを予想したりもしますが、すべてが狙い通りに進むわけではありません。

—レース中は何を考えているのですか?

 自分自身の力量は、決まっています。そこをしっかり理解しながら走らなくてはいけないんです。つまり、予定より早く力を使い切ってしまうようでは、ダメなんです。逆に、力を残してしまってもいけません。例えば100kmまでアシストするのがその日求められる仕事なのであれば、100kmで使い切る。最後までエースを守って、ゴール前での勝負にエースを参加させるのが仕事であれば、そこまで力を残さなくてはいけない。そういったことを踏まえて、残り距離やコースの起伏などを考えながら、集団の中での位置取りをして、今後の展開を予測し、補給を取りに行くタイミングを計ったりしています。

—ヨーロッパでは自転車選手の認知度は高いのですか?

 一般の方が自転車レースというものを認識しているのは確かですね。僕が自転車選手だとわかると「今度はどのレースに出るんだい?」なんて話しかけられたりもしますし、グランツールや歴史あるレースなどは、日本でいうところの「夏の甲子園」や「箱根駅伝」などと同じように、多くの人が当たり前のように認識しているのは確かです。

—新城選手にとっての、自転車レースの魅力はなんでしょうか。

 観客のみなさんが自転車レースを楽しんでくれること――それこそが自転車レースの魅力ですね。自分が見やすいように、そして楽しめるように、工夫しながら観戦してくれる方がたくさんいます。認知度の差はありますが、それは日本でもヨーロッパでも変わらないと思っています。

—数多くのレースがある中でも、最大の目標はやはり世界最大の自転車レース「ツール・ド・フランス」でしょうか。

 そうですね。やはりツール・ド・フランスが最大の目標です。サッカー選手がワールドカップに出たいと思うように、自転車選手にとってそれ以上の目標はないでしょうね。今まで7回ツール・ド・フランスに出場していますが、あらゆる意味でレースのクオリティが違います。観客の多さは別格です。そして(他のグランツールである)ジロ・デ・イタリアやブエルタ・ア・エスパーニャには、チームから急に呼ばれて参加しているような選手もいるのですが、ツール・ド・フランスは、100パーセント仕上がっている選手しかいません。だからこそ、僕にとってもやりがいがあります。その世界でいちばんのところで、自分の力を試したいんです。毎年、ツール・ド・フランスのメンバーが決まる前は緊張していますし、選ばれてからもずっと緊張しています。コンディションを落としてもいけないし、事前に上げすぎてもいけない。もちろん、ツール・ド・フランスの23日間はきついし、ずっと緊張しています。だから、最終日にシャンゼリゼに帰ってきたときは、やはりうれしいです。7回帰ってきたけど、毎回うれしいと思うし、そしてまた出たいと思うんです。

—シーズン中、日本が恋しくなることはありますか。

 レースのシーズン中に日本が恋しくなるということは、とくにありません。ツール・ド・フランスが終わるまでは体のスイッチが入りっぱなしなのでそんなことを考えていられないですし、世界選手権が終わって、(宇都宮で開催される)ジャパンカップの足音が近づいてくると「ああ、そろそろ日本だな」と思うくらい。シーズン中はほとんど日本語を話す機会もありません。

—トレーニングやレースで使う自転車を、新城選手がご自身でメンテナンスすることはあるのですか? 自転車いじりは好きですか?

 自転車を触るのは好きなんです。とくに自分では何も変えませんけどね。洗車も好きです。レースで使う自転車のセッティングやメンテナンスは、メカニックの仕事。選手が自分で何かをやるということはありません。トレーニング用の自転車を洗車して、チェックするくらい。問題があれば、メカニックに対応してもらいます。メカニックの作業は、信頼しています。プロに任せる安心感は絶大です。セッティングについては、監督からアドバイスはあるのですが、最終的には選手が決めて、メカニックに指示を出します。選手がこのセッティングにするといったら、もうそれは選手の責任ですね。